2022.02.01(499)

「EF万年筆 書き込み生活」

パイロット

カスタム743 EF

パイロット カスタム743 EF

「瞬記」を書き続けている。2020年の年末から始めたので、1年以上になる。以前、pen-infoでも「瞬記」のことを紹介したが、念のため説明しておくと、書こうとした瞬間に頭の中にあることをつらつらと書き出していくものである。日記ではない。日記というと、書かなければならないとなりがちだが、「瞬記」は別に毎日書かなくても全然構わない。その気楽さが良かったのか続けられている。

瞬記

書いている内容は、まさにその時に頭に浮かんだこと。書こうとしているその瞬間に目に見えることや聞こえることをはじめ、その日あった嬉しかったこと、そうでないことなどもある。書きはじめた当初は、こんなことをやって何の意味があるのだろうと首をひねりながら書いていた。半年くらい続けてきた頃だろうか、首のひねりが頷きに変わった。少しだけ自分の中に変化があったのだ。一つに頭の中のことを出す気持ち良さがあった。コロナ渦で自分の中に感情や情報が溜まっていく一方だった。それを「瞬記」で出すことでバランスが取れたようだ。そしてもう一つ。大好きな万年筆を気に入った紙で書くという行為が純粋に楽しかった。この2つの気持ち良さに助けられ、今も続けられている。

■ このEFのザラザラした書き味を心地よくしたいと思った

パイロット カスタム743 EF

「瞬記」を書きはじめた当初は、手持ちの万年筆の中で普段あまり使っていなかったものを日替わりで持ち替えて使っていた。久し振りに手にすると、この万年筆はこんな個性を持っていたんだ、などと新たな発見があったりした。ある程度文字を書くため、その万年筆としっかり向き合うことができた。ノートは大きくてもA5くらいでA6くらいの手帳サイズのものもある。そのため万年筆はF(細字)系の出番が必然的に多くなる。そうした「瞬記」生活を送っていたある日、パイロットカスタム743のEFを手にすることがあった。買ってからすでに7年が経っていた。これまであまり手にする機会がなかった。久しぶりに「瞬記」を書いてみると、カリカリとした書き味がひときわ私の手を刺激した。他のFよりもやはりEFの方が、どうしても針先で書いているようなカリカリ、紙によってはザラザラとしたものが余韻として残った。

パイロット カスタム743 EF

その書き味を体の中に入れて考えた。この743EFの書き味を私好みのサラサラとしたものに育てたいと思った。そもそもこの743 EFを買ったのには理由があった。校正専用万年筆として使い続けているパイロットカスタム742 EFがある。14年間書き続けてきたことで、カリカリはすっかり影を潜めサラサラと気持ちよく育っている。この書き味をブルーインクでも楽しみたいと買ったものだった。でも、その後なかなか使っていく機会が作れずに時間だけが過ぎていた。

パイロット カスタム742 EF カスタム743 EF左が校正用万年筆として14年間愛用しているパイロット742 EF

そうだ、この743 EFで日々の「瞬記」を書き続けていけば、ペン先の馴染みもグングン進んでいくに違いない。そう考えた。

■ 馴染むより先に手がEFモードになった

瞬記

ちょうど「瞬記」に使っていたノートが終わり、次に使おうと選んだのが、MDノートジャーナル<A5>だった。368ページもある分厚いノートだ。このノート一冊全てを743 EFで書き続け、ペン先を育ていくことにした。EF集中書き込み生活だ。ダイエットをする時に集中的に走り込みをしたりするが、ちょうどそんな感じだ。分厚いMDノートを開き、ページの中央をゴシゴシとならして、743の針先のようなペン先を添えて書いてみた。カリカリにザラつきも混ざった書き味がやってきた。そうか今の書き味はこんな感じなんだと受け止めていく。数日書き続けてはルーペでペン先を覗き込むが、まだ全然ペン先に変化はなかった。まぁ当たり前だろう。そんなに早くペン先が馴染むなんてある訳がない。そんなことわかっているのだが、ついつい覗いてしまう。

パイロット カスタム743 EF

試しに14年間使い続けた校正用の742 EFをルーペで覗いてみた。ペン先にハッキリと長年の赤入れで生まれた「面」がペン先にチョコンとあった。これを早く作りたい。そう思うが、743 EFの変化はなかなか現れない。「瞬記」は毎日8ページを書き続けていった。来る日も来る日も書き続けた。すると小さな変化が起きた。カリカリ感が少し和らいできたかなと思う瞬間が時たまあった。MDノートのページが半分くらい進んだ頃だった。ひょっとしてとルーペを手にペン先を覗き込んでみた。しかしペン先には面らしきものは相変わらずなかった。それなのに少し書き味が変わった気がした。これはどうしたことだろうと不思議に思った。ペン先ではなく、私の手がこのEFの気持ち良い書き方を身につけ始めたのだ。以前のようなザラつきが伝わってこないように、筆圧をより軽くやわらかく書いていくようになっていたのだ。手の方がEFに順応し始めたのだ。

瞬記 パイロット カスタム743 EF

このEFモードで残りのMDノートに向き合っていくことにした。そして、2ヶ月くらいかけてMDノートの360ページほどを書き切った。恐る恐るルーペでペン先を覗くが、まだ面と呼べるものは見当たらなかった。ちょっと期待していたので、がっかりした。でもそんなに簡単には馴染まないのだろう。14年間かけたものを1冊で手に入れようなど、都合が良すぎる話だ。そう思い淡々と次のノートへと移っていった。

バンクペーパーノート

次のノートはバンクペーパーを使ったもので、紙質はわずかに凹凸感がある。MDノートの時よりもザラつきは少し増している書き味だった。日々の書き味に一喜一憂せずにひたすら書いていく。このバンクペーパーのノートを書き切ってルーペを覗くとペン先にチョコンと小さな小さな面みたいなところが見えた気がした。光の反射加減なのかもしれない、でも私には見えた気がした。742 EFよりもずっと小さい。書き味はまだカリカリとしたものが残っているものの、気持ち少しだけ心地よいカリカリになっている気もした。ペン先が馴染んだと胸を張って言える状態ではない。

ドレスコ オニオンスキンペーパー

743EF書き込み生活は3冊目に入った。次はオニオンスキンペーパーのノートだ。これまで勿体ないとずっと使えずにいた。そのノートを本棚から引っ張り出して書いていった。うっすらと裏面の文字が透けて見える。文字のレイヤーを楽しみながら書いていける独特な筆記体験が味わえる。

瞬記 パイロット カスタム743 EF オニオンスキンペーパー

瞬記 パイロット カスタム743 EF オニオンスキンペーパー

毎日同じ万年筆をこれほど長く使い続けるというのは、私の万年筆生活でも初めてかもしれない。「瞬記」は万年筆の書き味とじっくりと向き合うとてもいい筆記環境だと改めて思った。原稿を書くときも結構な文字を書くが、毎日ではなく週1〜2回くらいだ。「瞬記」はほぼ毎日、しかも8ページという分量をじっくりと万年筆と向き合っていける。EFなのに1週間くらいでインク補充タイミングもやってくる。自分の名前をたまに試し書きするだけの万年筆との付き合いとは全然違う。1本の万年筆と真正面から向き合っていけた。

瞬記 パイロット カスタム743 EF オニオンスキンペーパー



オニオンスキンペーパー ノートの半分くらいきたところで久しぶりにルーペでペン先をのぞいてみた。するとペン先にひときわ光を放っている小さな面ができていた。今度はハッキリと確認することができた。これまで書いてきたご褒美をもらったように嬉しかった。そういえば、最近さらにサラサラな書き味になっていた。743EFを使いはじめた日付からどれくらい経過していたかを計算してみると、およそ80日ほどだった。私の書き込み生活は新たな段階に入った。

瞬記 パイロット カスタム743 EF オニオンスキンペーパー

パイロットカスタム743 EF
私が愛用しているパイロットブルーインク
MDノート ジャーナル A5 1日1ページ ドット方眼

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