2016.08.23(362)

「控えめな活版印刷」

le typographe ル・タイポグラフ

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凸版を使って紙に印刷する活版印刷。出っ張った刻印をグイッと紙に押し込んでいくので、印刷されたものは凸凹とした立体的な風合いが生まれる。ベルギー ブリュッセルの活版印刷紙製品ブランド「le typographe(ル・タイポグラフ)」は、その立体具合にとてもこだわりがあり、紙の裏面に出っ張りが出てしまうのは、失敗と考えている。ル・タイポグラフの活版印刷紙製品を手にしてみると、なるほどたしかに裏面には出っ張りはない。少々厚めの紙を使っているということもあるのだろうが、ほどよい力加減で印刷されている。その分、繊細さというものがとても伝わってくる。

le typographe ル・タイポグラフ

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裏面に「TO DO LIST」の凹みは全く見られない

私が「ル・タイポグラフ」とはじめて出会ったのは、かれこれ5〜6年くらい前のドイツ ペーパーワールドの展示会場だった。活版印刷というクラシカルな手法を使いながらもモダンさがあるデザインやカラーのノートやカードが展示されていた。当時は今ほど活版印刷が再注目されている時期でもなかったので、私に目にはとても新鮮に映った。そして2016年の5月より日本にショールームをオープンし、日本での本格的な展開をスタートさせることになった。

le typographe ル・タイポグラフ

■ 繊細な印刷

活版印刷というと、アルファベットなどやや太めの力強い文字が印刷されたものという印象があった。「ル・タイポグラフ」のものは、とても細かな線のものが多い。たとえば、トンボの羽はこまやかなところまで繊細に表現されている。その昔、活版印刷と言えば木版や亜鉛や真鍮といった鉄製の版が使われていたそうだが、現在は技術も進歩して樹脂製の版が使われるようになった。これにより繊細な表現が可能になったという。

le typographe ル・タイポグラフ

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■ オーガニックデザイン

デザインには、虫や動物、植物など自然界のものがモチーフにされている。なかでも虫が多い。「ル・タイポグラフ」のシンボルに使われているのは「ヨーロッパ トウヒキクイムシ」。聞くところによれば、この虫は「タイポグラフス」とも呼ばれているという。と言っても別にその虫が文字に似ているということではない。この虫が木を食べ進めていった跡がまるで一筆書きの文字のように見えたからだそうだ。そうした意味合いもあり、「ル・タイポグラフ」では、「ヨーロッパ トウヒキクイムシ」を好んで使っている。

le typographe ル・タイポグラフ

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これが「ヨーロッパ トウヒキクイムシ」だ

■ バリエーション豊富なラインナップ

「ル・タイポグラフ」にはこうした奥ゆかしく繊細な活版印刷が施されたペーパープロダクトが色々と揃っている。たとえば定番アイテムとして、名刺サイズほどの小さなカードがある。いずれのデザインもかわいさに偏りすぎることなく、大人っぽさもほどよく併せ持っているので、私のような50代間近の男性でも使いやすい。

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カードやレターなどの手紙系ばかりでなく、日付けを自分で書き込むフリーのスケジュールツールもある。ウィークリータイプは日本語曜日も併記されている。

le typographe ル・タイポグラフ

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こちらは虫のアイコンが小さくあしらわれたレターヘッドと封筒。

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普段使いできるアイテムとしては、ドットや方眼のノートパッドもラインナップしている。こうしたドットや方眼ももちろん活版で印刷されたものだ。ちなみに方眼のマス目サイズは「6ポイント」。「ポイント」とは印刷の際の文字の大きさを表す単位である。ちなみにこの「6ポイント」サイズは2〜3mmくらいだとか。先ほどのレターヘッドもそうだが、綴じ部分は同色で塗られている。その姿が美しい。

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個人的に面白いと思ったのは、「ポケットリスト」というアイテム。厚めのボード紙が一箇所だけで綴じられている。中の紙はクルクルと回転スライドして出す。各紙にはミシン目があり、切り取れる。ページをめくるのではなく、クルクルと回転させるので、いつもとは違うメモスタイルになりそうだ。同じスタイルで小さいタイプの「チケットリスト」もある。

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切り取ったメモを収納できるポケット付き

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そして、こちらは鉛筆がセットされたノート。背表紙をうまく加工して鉛筆ホルダーまでこしらえている。

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広島平和公園に贈られた折り鶴を再生紙としてリサイクルした紙「おり姫」。白がベースだが、いろいろな折り紙の色がちりばめられている。これはその紙を使ったレターセットだ。

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世の中には紙製品は星の数ほどある。しかし、この「ル・タイポグラフ」からはそれらとは違う何かを感じる。それは、あくまでもさりげない凹凸の活版印刷であったり、普段は使わないようなとても厚いの紙、そして繊細な印刷。それらがあわさった独特の世界があるからなのだろう。束になるとひとつの紙の塊となって手にしたときにこの上ない満足感が得られる。いつもなにげなく行っている「書く」という行為を少しだけ特別なものにしてくれる。

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社長兼デザイナーのセドリック・ショブロー氏

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〔イベント情報〕
銀座・伊東屋(G.Itoya)7階フロア内 紙の専門店「竹尾見本帖 at Itoya」のイベントスペースに le typographe の期間限定ポップアップショップがオープンされるそうです。
2016年8月25日(木)~10月26日(水) *詳細情報

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