文具で楽しいひととき
パイロット
カスタム74 万年筆
2008年から使い始めているので、私のカスタム74歴は執筆時点で17年目になる。今は2本目を手に入れて愛用している。当初、使い始めた頃はカスタム74を「エントリー万年筆」と捉えていた。それが10年くらい使い続けた頃だろうか。違うぞ!この万年筆はエントリー向けという枠組みを超えた独自の良さがあるぞと思うようになった。カスタム74の何かが変わった訳ではなく、私の受けとめ方が変わっただけだ。カスタム74を手にしてからも色々な万年筆で書いてきた。いくつもの万年筆を手にしてきた中でカスタム74の新たな良さを手と頭がじわじわと理解していった。長く使ってきて分かることもある。それはファーストインプレッションとは違う、ロングユース Deep understandingとでも言おうか。
今回は数年前に買った2本目のカスタム74をベースに私が感じる良さをつらつらと書いてみたいと思う。
■ 突出した特長がないのが特長
2本目に買ったのは、ダークグリーン軸のF。1本目がMだったので次は細字でカスタム74を味わいたいと思った。ボディカラーは順当にいけばブラック軸を選ぶところだろう。でも私はあえてダークグリーン軸にした。パッと見はとても濃いのでグリーンはそれほど感じられない。ブラックと並べるとグリーンだと分かるくらい。そんな落ち着きが気に入った。自分ももっと落ち着きたい、でも少しだけ個性的でもありたいという、そんな気持ちがこれを選ばせたのかもしれない。
さて、いつものpen-infoのようにこのカスタム74について語っていこうと思うのだが、それがほとんど出てこない。明らかにここがこうなっているという際立った所が見当たらないのだ。でもそれがないからと言って、この万年筆がよくないかと言われれば、それは違う!と、立ち上がって目の前の机をばんと叩いて大きな声で私は主張したい。
椅子に座りなおし(想像の中で)、冷静に考えてみた。何も見当たらないということは、逆に言えば全体のバランスがとても整っているということである。太すぎず、かと言って細すぎる訳でもない。でもどちらかと言えば細身のボディ。ペン先はカスタム743から持ちかえると一瞬だけ小さいと感じる。でもこの細身のボディにはちょうど良いとペン全体を眺めて思い直す。
一つ、ここだけはという点を私は見つけた。それはボディの長さだ。キャップを外した状態で74と743を比べてみる。ペン先を別にすると、ほとんど同じなのだ。ほんのわずかに74の方が短いくらいだ。つまりボディは少々長めである。だからキャップなしで握ったときのホッとする心地よさがある。私はあまりペン先側を握らず、ネジ山の後ろあたりに指先を添える。それでも指の付け根には尻軸がしっかり乗って安心感がある。
右がカスタム743、左がカスタム74。ペン先の長さの違いに比べボディだけを見るとそれぞれの違いは少ない
カスタム74(左)のキャップの先端がコロンと丸いところも独特(右はカスタム743)
カスタム74の良さはキャップなしで書いた時にあると私は感じる。この状態だとペン先の小ささがほとんど気にならない。コンパクトな万年筆なのに書いていて余裕を感じる。たとえるなら、コンパクトカーに乗り込んでみると、車内は思っていたよりもゆったりしているという感じに近い。
■ ふつうの書き味がやっぱり良い
書いてみると、ペン先のしなりはそれほど感じられない。しなると確かに気持ちいい。筆跡に抑揚が生まれたりもする。それを求めるならフォルカンあたりを手にする方がいいと思う。私にはそれは出来ませんとキッパリと言ってくる潔さがカスタム74にはある。私もハナからそれを求めていない。ひたすらふつうに書いていければいいと思っている。そうした何かを求める人には、物足りなさを感じるだろうけれど、私にはこのふつうさがとても心地よく感じられる。
*
エントリー万年筆として使い始め、十数年かけて万年筆生活を送ってきた。そしてその静かな安心感みたいなものに魅了されている。長く使っていくことでその万年筆から受ける印象というものは変わっていくものなんだと、私にとっても発見だった。万年筆も熟成するが、使っている私も少しだけ熟成したのかもしれない。
右は私にとって1本目のスケルトンのカスタム74 M。インクはもちろんパイロット純正ブルーインク
パイロット カスタム74 万年筆 *専門店で試し書きをして買うことをオススメします。
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