2015.02.03(323)

「ラミー2000を感じさせる」

ラミー

ステュディオ 万年筆

ラミーのペンは、新製品として売り出されたばかりの時よりある程度時間が経ったときの方がその良さが感じられる。これこそ「バウハウス」の考え方なのだろう。「バウハウス」には、流行を追わない、時間軸で考えないという考え方があるそうだ。

2005年に発売されたラミー ステュディオをその9年後に急に欲しくなり買ってしまった。いつもなら欲しいと思っても少しばかりの検討期間をはさんで、頭を冷やしてからそれでもどうしても欲しいという場合に買うようにしている。しかし、今回の場合は、その頭を冷やす期間がとても短かった。もう、こうしてはいられないという状態になってしまったのだ。

それには、あるきっかけがあった。とある文具ショップのガラスケースの中でラミー ステュディオの万年筆を見かけたのだ。それ自体、べつに珍しいことでもなんでもない。

そのラミーステュディオはキャップがはずされ尻軸に差した状態になっていた。ふつうはキャップを締めた状態が多いのでその点は違っていた。そして、そのすぐ隣にはラミー2000の万年筆が先輩後輩が肩を並べるようにディスプレイされていた。やはり、こちらもキャップが尻軸にささった状態で。

ラミー ステュディオ 万年筆

この2本のペンが並べられた姿に私はやられてしまった。そのシルエットの美しさに。ラミー2000は、万年筆でもシャープペンでもそうだが、後軸からペン先にいたるボディラインが一本で結ばれるように美しい。私がラミー2000をこよなく愛しているポイントだ。

ラミー ステュディオ 万年筆も同じようにそのラインが実に美しかった。ひとつひとつのパーツたとえば、クリップやペン先の形などは比べれば違っている。なのにこうして並べてみると内側から醸し出されるなにかがとても似ているのだ。

以前、ドクター ラミー氏にインタビューをしたときに、ラミーのペンはクリップの形がどれも違うのにラミーらしさを感じるのはなぜですか?と聞いたことがある。ドクター ラミー氏は「中に貫かれている精神が同じだから」そう答えてくれた。まさにそれを感じた。

ステュディオと言うと、プロペラのようなクリップばかりにこれまで注目していたせいで、この全体のフォルムの美しさをすっかり見落としていたようだ。

■ 美しいマットステンレス

もうひとつやられてしまった点がある。それは、マットステンレスというボディ材質ならび仕上げだ。

ラミー ステュディオ 万年筆

ステンレスボディにヘアライン加工と呼ばれるまさに髪の毛ほどの細いラインが無数に施されている。

ラミー ステュディオ 万年筆

ブラックとシルバーと色こそ違うが、これもラミー2000とよく似た点だ。これは、現代版のラミー2000と呼んでもいいのではないだろうか、と私はガラスケースを腰かがめながらしみじみと見入ってしまった。値札を見れば、12,000円+Tax。

これは意外と安いではないかと、財布に手が行きそうになったが、その手を止めた。このマットステンレスボディタイプは、ペン先がステンレスなのだ。

ラミー ステュディオ 万年筆

最近は、金ペンばかりを使っているのでその点だけがとても気になる。ひとまず、お店をあとにして頭を冷やすことにした。しかし、来る日も来る日もあの2本が並んだ美しさが頭から離れなかった。

町でステンレス製の手すりを見れば思い出し、ラミー2000のシャープペンを見てはやはり思い出し、、という日々だった。思い悩んでいても仕方ないので、気になるステンレスペン先を一度しっかりと試させてもらおうと行きつけの文具店に足を運んでみることにした。

万が一のために、1万円札と5千円札を一枚ずつ財布に忍ばせつつ。お店につくとズラリとペンが並んだガラスケースの中でも、すぐにラミー ステュディオと目があった。

ラミー ステュディオ 万年筆

ラミー ステュディオの方も私のことを見ているような、そんな気がした。店員の方に試し書きのお願いをした。メラメラとした私の熱い気持ちとは裏腹に店員の方は、冷静に試し書きの準備をされる。

ラミー ステュディオ 万年筆

私の喉の手は、いつでも飛び出せる準備を整えていた。「はいどうぞ」とラミーステュディオを差し出され、喉の手ではなく右手で受け取った。まず、意外だったのは、メタルボディのわりに思っていたほど重くなかった。

ラミー ステュディオ 万年筆

ラミー2000の万年筆よりもすこしばかり重いくらいだった。サラサラとした質感のマットステンレスの指触りを味わいつつ、紙の上でペン先を走らせた。

ラミー ステュディオ 万年筆

ペン先が紙にあたった瞬間やっぱりそうか。。。と感じた。いつもの金ペンと違うタッチなのだ。ようは硬いのだ。私はそんなに筆圧は強い方ではない。だから、金ペンのしなりはふだんそれほど使っていないだろうと思いこんでいたが、そうでもなかったようだ。

こうして改めてステンレスペンで書いてみるとしなりのない書き味にしっかりと違和感を覚える。ただ、硬さはあるもののペン先はスムーズに走る。試し書きさせてもらったのはF(細字)。日頃、国産万年筆を使っている私にはM(中字)に近い太さだった。

これは、ノートに書くときに使いたいので買うならEF(極細)だなと、もう「買うつもり人間」に私は変身していた。考えてみれば、マットステンレスのボディと同じ材質のステンレスペン先というのも相性としてはいいじゃないかと無理矢理ないい訳が頭によぎった。

店頭にはあいにくEFの在庫がなかったので、スカラのEFで念のためラミーのEFの細さを確認して、最終的に私は「買った人間」へと進化を遂げた。

数日後、取り寄せてもらったステュディオを受け取り早速、この原稿を書いている。

ラミー ステュディオ 万年筆

満寿屋の原稿用紙は万年筆の筆跡が他の紙に比べてやや細めになる傾向がある。パイロットのFの筆跡と比べてみたらほぼ同じくらいだった。

ラミー ステュディオ 万年筆

ラミーのちょっと太めのEFもしっくり馴染む。また、ノート(スケッチブック)に書く時にもたまに手にしている。こちらは原稿用紙の時よりやや太めの筆跡になる。

うまい具合に私が普段よく使っている0.7mmシャープペンと同じくらいだった。会議の時にスケッチブックに色々と書き込むのにちょうどよさそうさだ。

ラミー ステュディオ 万年筆

ラミー ステュディオ 万年筆

書き味は少々硬めだが、久しぶりにワクワクさせてくれる万年筆に出会えた。

■ 記事作成後記

一応、ステュディオの特長でもあるクリップのフォルムについても触れておきます。

ラミー ステュディオ 万年筆

根元は平らになっていますが、クリップの先端に行くに従い、だんだんと縦になっていくのです。横だったものが縦になっているのですが、その流れがあくまでも自然。よくよく観察してみると、これは一枚の板状のものを折り曲げてこの独特のフォルムを作り上げています。それがよくわかるのが先端の部分。折り曲げているので、ここだけは2重になっているのです。

ラミー ステュディオ 万年筆

2枚重ねということは、そこだけ厚みが倍になる訳です。でも、全体の印象は全て同じ厚みに見えます。実は、根元の横のところはエッジが折れ曲がっていて厚みがあるように見せているのです。

ラミー ステュディオ 万年筆

以前、ドクター ラミー氏からこのステュディオのクリップ加工はとても難しいと聞いたことがあります。なるほど、たしかにこれは相当に大変そうな複雑な作りこみをしています。それから、よくよく見てみれば、キャップをした姿もラミー2000とよく似ていました。

ラミー ステュディオ 万年筆

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