2009.04.07(177)

「シンプルさの中の精巧」

カランダッシュ

849 ボールペン

カランダッシュ 849コレクション ボールペン

ハイコストパフォーマンスでロングセーラーのペンとしてこれまで「プラチナ万年筆のプレスマン」、そして「ぺんてるのグラフ1000」をご紹介してきた。ここで海外勢からも一つ取り上げてみようと思う。今回選んだのは、スイスの筆記具メーカー、カランダッシュ849コレクション。

ロングセラーや機能性ということで言えば、その候補は海外勢にもたくさんあるが、お手頃価格となると、その選択肢は決して多くない。多くの海外筆記具がじわりじわりと価格を改定しいくなかでこのペンはじっと思いとどまってくれている。

さて、カランダッシュというメーカーは鉛筆製造からスタートしたという歴史がある。ちなみに、「カランダッシュ」という名前はロシア語で「鉛筆」という意味。そのカランダッシュの名を一躍有名にしたものに自動給芯機構を持つ金属製のメカニカルペンシル「フィックスペンシル」というものがある。このように、同社の歴史を語る上で、鉛筆は切っても切り離せない深い関係にある。

しかし、今回はその鉛筆系ではなく、あえてボールペンをご紹介していこうと思う。カランダッシュのボールペンも鉛筆に負けず劣らず並々ならぬこだわりが込められているそこのところを今回はひとつ掘り下げてみたい。

■ 使い込んだ鉛筆フォルム

まずは、この849コレクションのデザインから見てみよう。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

やはり鉛筆というみずからの生い立ちを大切に守っているのだろう。ボディは、鉛筆の六角軸をしている。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

カランダッシュ 849コレクションボールペン

さらに言えば、ペン先までもが削りたてほやほやのようなフォルムにもなっている。そして、長さについてはボールペンにしてはやや短めの12.7cm 。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

これは「短い」という言葉で簡単に済ませてはいけないように思う。そこには、きっとこんな意味が込められているのだと思う。ひとつは、当初長かった鉛筆が使い込こまれ、それが次第に短くなり、手に最もなじむ状態の長さ。つまり、一番脂の乗り切った姿であるというものだ。

そして、もうひとつはこの適度な長さは鉛筆だけでなく、ボールペンにとっても最適なサイズであるとも言える。ノックボタンに指をかけてみると、そのことがしみじみと実感ができる。

文字を書いていてノックボタンに親指を書けるときの親指の移動距離が短くて済むのだ。つまり、書き始めそして、書き終える時もスムーズに行えるというメリットがある。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

カランダッシュ 849コレクションボールペン

■ 訳あってつなぎ目のないボディ

そんなボディには、他のペンではあまり見かけない違いというものがある。それは、ボディに繋ぎ目がなく、ひとつのパーツで出来ているという点だ。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

試しに、皆さんのお手元にあるボールペンをいくつか見て欲しい。それらの多くはきっと、ボディの半分からねじって分解できるものや、ペン先側が別パーツなっていないだろうか。

このワンパーツボディというスタイルは849コレクションだけでなく、カランダッシュのハイエンドモデルでもある「エクリドール」でも貫かれている。このワンパーツボディの優れている点をご説明させていただく前に、ひとまず、849コレクションを分解してみることにしよう。子供の頃からすぐに何でも分解してみたくなる私としては、この849コレクションでは、全くもって「分解心」がくすぐられない。

というのも、分解できるのは、ノックボタンくらいだからだ。ノックボタンはクルクルと回転させると外れ中からリフィルがスルスルと出てくる。どうしてもさらに分解したという方のためにちょっとコツは必要だが、クリップもスライドすれば外すことができるようになっている。分解心も、すこしばかり満足したところでそれらのパーツを見てみよう。

ボディ、ノックボタン、リフィル、クリップという少なさだ。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

厳密に言うとボディの中にはスプリングも入っているが、これは取り出すことはできないようになっている。それらを合わせても、たったの5パーツだけである。

カランダッシュが本拠を置くスイスと言えば時計作りが盛んな土地柄。かたや時計では、いかに細かくたくさんのパーツをくみ上げてるかという、その技を競いあっているが、こちらはある意味その対極といってもいい。

しかし、パーツが少ないと言うことにも、それはそれで深いこだわりが隠されている。それは、一つ一つのパーツの精度がとても高い、と言うことにほかならない。

例えば、ボディの先端の穴ひとつとってもそうだ。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

これはリフィルが出て、なおかつ、筆記時にはガタツキがないようにしなくてはならない。ペンの書き味を左右する重要な部分である。ここを別パーツにしているペンが多いのはその精度を保つために、最小単位のパーツで作りたいからなのだろう。それをカランダッシュでは一つのボディで実現させてしまっている。

また、ノック機構は、基本、ノックボタンとリフィルだけで実現させている。ボディ側には、ノックのための特別な機構は備わっていない。しいてあげるとすれば、ノックボタンを固定するために内側にねじ切りがあるだけ。しかし、このねじ切りの位置もノックボタンがスムーズに作動するよう高い精度で作られている。

分解したボディを望遠鏡のように覗くと、ほとんどさえぎるものはなく、反対側が見えるという、徹底したシンプルさではあるが、1本の筒状のボディに余計なものをつけずに、それ自体の精度をあげて作られていることがおわかりいただけると思う。

そこまでして少ないパーツにしたかったのは、なぜだったのか。という疑問がわく。これは、故障というリスクを最小限にとどめたかったからだと以前同社の方からお聞きしたことがある。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

確かにパーツが多くなれば、その分色々なことが、起こり得る。それを必要最小限のパーツで実現し、同時にスムーズな使い心地を生み出している。カランダッシュのものづくりのこだわりがしっかりとあらわれている。

■ 「ゴリアット」という名のリフィル

リフィルについても触れたいことがある。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

そもそもこのカランダッシュのリフィルには「ゴリアット」という名前が付けられている。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

ペン自体に名前があってもそれほど驚かないが、その中に入るリフィルに名前がついてるのはかなり珍しい。一般的なリフィルは、仮に名前があったとしても数字の品番くらいだろう。

それもそのはず「ゴリアット」 はカランダッシュ自らの工場で、こだわり抜いて生産しているものなのだ。「ゴリアット」という名はギリシャ神話の巨人にちなんで名付けらている。これが、発売された当初は、他社に比べかなり大きめなサイズであったためだ。

1本で、10kmもの筆記が可能。これは A4の紙にして約600枚相当も書けるというもので、まさに巨人という名にふさわしいインク量である。この「ゴリアット」の最大の特徴それは、滑らかな書き味だ。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

さすがに三菱鉛筆のジェットストリームとまでは行かないが、それとは違う重厚感のある滑らかさがある。

ノック式のボールペンと言えばノックの時に、「カチッ」という音がするものだ。しかし、カランダッシュでは基本的に音がしない。かすかに「シャキッ」という金属同士がこすれあう音がする程度だ。そのノックの動きの中で、ひとつ気づいたことがある。それはノックされたリフィルは回転せずに、常にまっすぐ繰り出されていることだ。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

ボールペンの中には、ノックをするたび、中のリフィルは回転するものもある。これは、ボールペンと言えども常に同じ抜きで書き続けているとペン先が回転によってチップがいわゆる「偏減り」を起こしてしまうからだと、とある方からお聞きしたことがある。しかし、カランダッシュではリフィルは一切回転していない。

「ゴリアット」のチップには大変硬い「タングステンカーバイド」という素材を使っている。これはいつもの私の勝手な憶測だが同じ向きでしかも10キロという長距離を書いてもへっちゃらと言うことなのだろうか。いずれにしても、こうしたあまり見えないところへのこだわりにも好感がもてる。

この849コレクションは、皆さんの中でお持ちの方も多いと思う。一見すると、とてもシンプルなつくりこみになっているが、その裏にはそれを支える精巧さというものもまた存在している。

「シンプルさの中の精巧さ」という言葉がまさにピッタリとくるペンである。

カランダッシュ 849コレクションボールペン

□ カランダッシュ 849 ボールペンは、こちらで手に入ります。

■記事作成後記

*1本で10kmの筆記が可能ということで、ちょっと補足させていただきますと、字幅によって違いが出るそうです。例えば、太字はインクの出が多いので、細字に比べ筆記距離も短くなります。
*チップに「タングステンカーバイド」を使っているメーカーはほかにもあるようです。

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