2012.02.07(248)

「万年筆ペン先をルーペで見る」

PEAK ピーク

ルーペ 15倍

野球選手のイチロー選手は、バッターボックスに入る時の動作がいつもほぼ同じだという。

ネクストバッターサークルで屈伸をしてバッターボックスに入り、バッターボックスでは、左手を右肩あたりのユニフォームに手を添える。そして最後にいつもの決めポーズがある。それは、バットの垂直に立ててバックスクリーン側を見つめるというもの。まるで射撃をする時に照準を合わせているかのようだ。

■ 原稿を書きはじめる前にルーペで覗く

私も毎朝原稿を書く時の動作がいつもほとんど同じ流れになっている。まず、朝5時半におもむろにベットから起き、お湯を沸かしてコーヒーを入れ、コーヒーポットとマグカップを両手に持ち、いつもほぼ同じ歩数でキッチンから書斎に行く。

椅子に座ると左手を後ろに回し原稿用紙をバサリと取り、右手でペンケースからペリカン スーベレーンM 800を抜きとる。そして、さあ書くぞという最後の締めくくりに、必ず行うのがルーペを取り出して、ペン先を覗きこむという作業。

ペンポイントをしばし見つめ気持ちを集中させて書き始める。このルーペを覗きこむという作業、書くという点で全く関係がないのだが、これをやらないと、どうにも落ち着かない。私がルーペで何を見ているかというと、ペンポイントの状態。

私は自分でペン先を調整したりなど全くやらないのだが、このペンポイントを見ているととても幸せな気分に浸れる。私が愛用しているのはピークというルーペメーカーのもので15倍レンズが付いている。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

たしか値段は2,000円くらいだったと思う。この15倍というレンズは倍率がやや高い分、拡大して見ることができる範囲、つまり奥行きのことだが、これが結構狭い。もともとは、印刷物の上に置いて使うもののようだ。新聞紙にポイと置いてみると、文字にピタリとピントが合う。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

ペンポイントを見るときはペン先とルーペの物理的距離がピタリと合わないと、クッキリとした像で見ることが出来ない。それこそ1mm 単位で、だんだん近づけたり逆に離したりして、クッキリとペンポイントが見えるところを探していく。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

初めの頃は、そうした作業が必要だったけど、今では万年筆を右手に、ルーペを左手にして一度にピントがバッチリと合うようになった。ルーペでペンポイントを覗き込んでみると、普段目にしない世界がそこにはある。はじめて見た時は、ペンポイントってこんな形をしていたのかとちょっとした感動すらあった。

■ ペリカンスーベレーン M 800

私が原稿用万年筆としてよく使っているペリカンスーベレーン M 800は、フルハルターさんで私の書き癖に合わせて研ぎ出してもらったものだ。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

いつも快適に書いていけるのはこのペンポイントのおかげだったのかと毎回見ていると、親近感がわいてくる。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

しかも、もう5年程書き込んでいるので、ペンポイントに少しばかり変化が出来たように感じた時があった。急にというよりもじわりじわりと。これは気のせいかもしれないけれど…。

毎回書き始めにルーペで覗き込んでいるのは実は、その具合を確認したいから。自分の使った証を目で確認するという訳だ。ちょうどゲルインクボールペンのインクがだんだんと減っていくのを見て道具を使ってるなと実感できるように。

デジタルには、この減っていくと実感することが少ないように思う。最近の外付けハードディスクなどは1テラバイトもあり、少し使っただけではなにがどう減ったのか、ちっともピンとこない。

しかも、その減り具合も数字で示されるので、自分が本当にそれを使って減らしたのかあまり実感がわかない。ペン先やインクが物理的に変わったり、減っていくのを見る方が「道具を使っている感」というものが楽しめる。

このルーペでもって、自分の持っているその他の万年筆のペンポイントも見てみたところ、万年筆ごとにペンポイントに個性があるのがよくわかった。

■ パイロットカスタム823 コース

私の持っている万年筆の中で、一番見ていてうっとりしてしまうのがパイロットカスタム823のコースというとっても太いペン先。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

これもフルハルターさんで研いでもらったものだ。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

このペンポイント、Bよりも太いのだが、ルーペで覗いてみると、太いというよりも、むしろ広い。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

しかも、その表面がツルツルとまるで鏡のように磨かれていて、ルーペ越しに自分の顔が映っているのが見える程だ。この他にもいくつかの万年筆のペンポイントをルーペで覗き込んでみた。

■ パイロット カスタム743 ウェバリー

PEAK ピーク ルーペ 15倍

ウェバリーはペン先が上を向いているタイプ。ペンポイントとしては、M字相当だそうだ。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

まあるいペンポイントが見えた。まだまだ、その丸がしっかりと残されている。つまり、私の書き込みがまだまだ足りない、ということだ。。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

■ パイロット カスタム 742 EF

PEAK ピーク ルーペ 15倍

私が原稿の校正専用としてこちらも5年ほど愛用している万年筆。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

私は、日頃から結構盛大に朱入れしているので、校正専用とはいえ、使用頻度かなり高い。ペンポイントの変化を期待したが、あまりにもペンポイントが小さいのでハッキリとした変化は確認できなかった。しかし、気持ち私が作ったであろう面が少しだけできているような気がした。

心の中で小さなガッツポーズをとってみた。あらためてパイロットのEFペンポイントをじっくりと見ていると、それは、まるで小さな刃物のようだ。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

■ パイロット カスタム74 M

PEAK ピーク ルーペ 15倍

この万年筆は主に一筆箋に使っている。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

やはりMということで、先ほどのウェバリーとペンポイントの形状は似ている気がする。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

■ セーラー万年筆 プロフェッショナルギア M

PEAK ピーク ルーペ 15倍

シルキーなタッチが特徴のセーラーのペン先。ペンポイントに見える面のような部分は確か、もとから作られていたように思う。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

紙の上にペン先を添えた時のソフトなタッチは、このペンポイントによって生まれていたのだろう。(きっと。。)

PEAK ピーク ルーペ 15倍

■ 中屋万年筆 シガー 極太

PEAK ピーク ルーペ 15倍

こちらも私の書き癖に合わせて研ぎ出したもらったもの。Bよりひとつ太い極太。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

ペンポイントは、まるで握り拳のようで力強さを感じる。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

■ モンブラン マイスターシュテュック 146 M

PEAK ピーク ルーペ 15倍

年季から言ったら私の持っている万年筆の中でこれが一番の古株。もうかれこれ20年くらいになる。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

ペンポイントにはその年月によって作られた面がわずかばかり確認できる。改めて、こういうのを見るとさらに愛着がわいてしまう。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

また、このルーペでペン先を覗き込むのは、ただ見ていて楽しいということだけではなく、実利もある。覗き込んでみると、結構よく、ペン先の周りに糸みたいなものが付着していることがある。自分では糸を巻き付けた覚えなど全くないのに。

たまに、その糸みたいなものがペン先にまとわりついて、それに気づかず書いてしまうといきなり太字になってしまうことがある。ルーペで覗きこむことで、そうしたものを事前に確認して取り除くこともできる。万年筆は基本、書いてその味を楽しむものだが、ペン先をルーペで覗きこむことで、その味が目でも確かめられる。

だんだんと変化してきたペンポイントで書くとその心地よさは気分的にも倍増する。

PEAK ピーク ルーペ 15倍

*記事作成後記
今回のルーペ越しにペンポイントを撮影するのは、結構大変でした。まず、カメラを三脚でしっかりと固定します。一番大変だったのは、カメラそしてルーペという2重のレンズ越しにペンポイントのピントをピタリと合わせること。それこそ1mm単位で微調整しながら撮っていきました。。

万年筆に限らず、ボールペンのペン先やシャープペンの芯先などを覗き込んでみるのも楽しいですよ。

■ 私が使っているPEAK  ルーペ 15倍はこちら

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