2010.10.12(215-1)

「PWチャイナ2010 1」

ペーパーワールド チャイナ

2010 展示会レポート

ペーパーワールドチャイナ2010 レポート

毎年、中国上海で開催される文具オフィス用品の展示会「ペーパーワールドチャイナ」。

ペーパーワールドチャイナ2010 2

例年は肌寒い11月の開催だが、今年は9月。この時期ちょうど、上海では万博が開催されている。それに合わせてペーパーワールドチャイナも9月に開催したのかと思いきや、実はそうではなく、この9月という時期は、中国の文具バイヤーにとって、最適な時期であるためだという。ちなみに来年2011年も、この9月での開催となる。

このペーパーワールドチャイナの取材で上海を訪れるのもかれこれ今年で4年目になる。来るたびに発展を遂げている上海だが、今回は、例年以上に違う面が見られた。

たとえば、いつも上海に着いて感じるのは空がうっすらと霞がかかったようになっているというのがある。日本の空とは違うので、これを見ると上海に来たのだなと、実感する。

しかし、私は到着した日は大雨が降った直後だったので、いつもの霞はきれいに払い流され上海の広大な町の奥の方までくっきりと見渡すことが出来た。

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雨はその日だけだったが、この澄み切った上海の空は私の滞在中ずっと続いていた。後日、通訳の人にお聞きしたところによれば上海万博もあり、上海にある工場の多くが移転したのだという。

こうしたことも関係しているのだろう。また、ホテルに向かうタクシーでは、こんなこともあった。それは道路工事がめっきりと少なくなっているということ。

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いつも空港からホテルに向かうタクシーの中で、ちょうど今私が書いているような上海の第一印象を忘れないようにと、システム手帳とプレスマンで書きとめているのだが、例年は道路のあちこちが工事中のため、舗装もあまり良くなく、書いていると文字が結構激しく踊ってしまった。しかし、今回はスムーズに書くことが出来た。

こちらも上海万博に向けて、街全体が綺麗に整備されたためだろう。ただ、交通渋滞と車のクラクションは相変わらずで、あちこちで鳴り響いていた。上海の町中に入っていくに従い、渋滞が激しさを増し、車の車線の奪い合いも激しくなっていく。

どの車も我先にと前へ行こうと、かなり無理な車線変更を繰り返している。ちょっとでも前方にすき間があこうものなら、すぐに隣の車線から車が割り込んでくる。

日本みたいに、お先へどうぞなどと道を譲っていては、前には一向に進めなくなる。上海の道路では、まるでみんなが何かのレースでも参加しているようだ。こうした道路で日々鍛えられるのだから、中国出身のF1ドライバーが今後どんどん出てくるのかもしれない。

さて、そんな変化を遂げ、勢いに乗っている上海で今年のペーパーワールドチャイナは開催された。展示ホール3館には、19ヶ国、570社もの文具メーカーが出展していた。

主催者の発表によると、昨年より10%ほど規模が拡大しているという。その8割からは中国文具メーカーで占められていた。今回も会場の端から端まで全て歩ききり色々なステーショナリーを取材してきた。

では、早速そのレポートを。

■ 大きなブースを構えていたインスパイラ

以前、このコラムでも「三つ折ノート」や「とことん書き込む方眼ノート」などをご紹介したことがあるのでご記憶の方も多いかも知れない。

ペーパーワールド チャイナ 2010 展示会レポート

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ISOTの時は小さなブースでの出展だったが、やはりお膝元ということで、ペーパーワールドチャイナでは広いブースを構えていた。広いだけでなく、ブースの装飾も手がこんでいて、装飾自体がとても高くなっていた。

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よくよく見てみると、それはちょうどノートを広げたような形になっていた。改めて、他の大きなブースを見てみると、見上げるほどの高いブースがいくつもあった。

中には二階建てになっていて、そこに商談スペースを設けているところもあった。上海の街には、いくつもの高層ビルが建ち並んでいるが、このペーパーワールドチャイナでもちょうど同じような感じであった。インスパイラブースを見上げていたら、日本人スタッフの野口さんが私に気づいて、「つちばし さん こんにちは!」と出てきてくれた。

なぜか中国の人は私の名前を「つちはし」ではなく、「つちばし」と発音する。通訳をお願いしてきた歴代の人たちもみんなそうだった。中国語で「は」は発音しにくいらしくどうしても、濁って発音してしまうのだそうだ。なんだか、「くちばし」さんと言われている気がしてくる。。。

インスパイラは中国の文具メーカーだが、販売先は、主にヨーロッパ向けが中心。そして、最近は日本向け販売にも力を入れ始めている。その日本で販売していくものが、富士山の看板の下に並べられていた。

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その中の一つにとても綺麗な色をしたノートシリーズがあった。その名も「ジャパンカラー」。

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日本に古くから伝わる色、たとえば、紺や紫、桃色などが使われているのが特徴。ビビッドなカラーとは違いどこか優しさのある色合い。さらに、表紙のコーナーには、アクセントとして模様がある。これは日本も着物の柄からとったものだという。日本の伝統色、そして着物の柄というように、それ自体は極めて日本的なのだが、全体を通して見ると、不思議とあまり和風という感じはしない。

きっとそれは、インスパイラがこれまでヨーロッパ向けデザインで培ったものをベースにしているからなのだろう。このノートは、198ページととても分厚いつくりであることが特長。

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これは、ある日本人の方からの要望がきっかけとなって生まれたもの。それは海外出張の時に使うノートを作って欲しいというものだった。その方はよく海外に出張するそうで、以前は日本の仕事のメモも海外出張での出来事も
すべて一冊にまとめていた。

それだと、どうしても情報が混在してしまい、何かとトラブルも多かったという。同じ文章を書くにも英語で記録するときは、日本語の時よりも文字数がどうしても多くなってしまうそうだ。

それゆえたっぷりとしたページ数が必要となる。そこで、今回の様な198ページと、たっぷりとしたものを作ることにした。中の紙面は、シンプルな横罫線。

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なお、「三つ折ノート」は、現在販売に向けて着々と準備が進められているという。野口さんの希望的観測としては、来年の3月頃には日本でも発売していきたいとのこと。販売は2冊セットになる見込みだという。

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【まだ、24歳だという野口さん】

■ 三菱鉛筆が新製品を発表

今回のペーパーワールドチャイナでは、全体の規模は大きくなったというが、我らが日本の文具メーカーの出展は、残念ながら少なくなってしまっていた。その中でも、大きく出展していたのが三菱鉛筆。

三菱鉛筆は、このペーパーワールドチャイナに以前から出展していた。出展していたのは香港法人。これまではあまり大きくない1小間くらいだったが、今回はその数倍の大きさで、やはり広さだけではなく、ひときわ高いブースにもなっていた。

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ブースの一角には、長い行列ができていた。何が行われているのか気になり、私も早速、その列に加わってみた。

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列が段々と前に進み、三菱鉛筆が新発表した「Vision RT」という水性ボールペンの書き味アンケートを行っているということがわかった。それに答えると、そのペンがもらえるのだという。

中国語のアンケートにとまどっていると日本語で話し掛けてくれるスタッフの方もいた。改めてブースの中をグルリと見回してみると、他にも日本人スタッフらしい人が、何人も見かけられた。

中国の人も日本の人も見た目としては同じ様に見えるのだが、不思議と日本人はわかったりする。どこが違うのかと聞かれるとうまく言葉では説明できないのだが、全体から発する印象がどこか違う。日本人特有のものがある、と私は思っている。

きっと、この人は日本人だろうというスタッフの方に「失礼ですけど日本の方ですか?」とお聞きみると、やはり当たっていた。三菱本社からきているというこの方に今回の新製品「Vision RT」のご説明をしていただくことにした。

今回の「Vision RT」は水性ボールペン。

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ゲルインクではなく、水性インクを使ったものとなっている。日本では、ボールペンというと油性やゲルインクの方が一般的。一方、欧米では水性ボールペンが主流となっている。

万年筆のようにインクがたっぷりと出て、滑らかに書けるのが好まれているそうだ。そして中国も万年筆文化がもともとあったためだろうか、水性ボールペンがよく使われている。

三菱鉛筆では、この水性ボールペンに長年にわたって取り組んできている。1979年のユニボール UB-100を皮切りに、UB-120、ユニーボール EYE などたくさんのペンを作り続けている。

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そしてその完成形として「Vision ELITE」がある。

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これは日本でも販売されているので、ご存知の方も多いと思う。最大の特徴は、気圧変化の激しい飛行機の中でもインク漏れしないという点である。

そして今回の「Vision RT」は、これまでキャップ式だった「Vision ELITE」をノック式にしたという新製品である。

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キャップがノックになったというだけでは、おそらく日本の皆さんももあまり驚かれないと思う。しかし、これからご説明することはちょっとすごいことである。

正直、私もびっくりしてしまった。ちなみに、「RT」の意味は、「リトラクタブル」。つまりノック式のこと。日本では、「ノック式」と言っているが、英語で「Knock」は、ドアーをノックすることなので意味が違う。

では、私が驚いてしまった、このペンの機構に話を移してみよう。このリフィルにはこれまでにない機構が備わっている。その名前は、「エレベーター式」というもの。

これは、なんとインクがエレベーターのように下から上に上がっていくというものだ。使用前、使用中、使用後のリフィルを見せてもらった。

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使用前は、リフィルにほぼ満タンにインクが入っているが、使っていくと、当然インクは次第に減っていく。

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その減ったインクがなんと、ペン先側にたまるのではなく、リフィルの後ろ側にたまっていくのだ。つまり、ペン先側には空気があり、その上にインクがあるという、これまで見たこともないような光景。

ちなみに、この状態はペン先を下にしようが上にしようが、はたまた、リフィルを振ってみてもこの状況は全く変わらない。しかも、パワータンクのような圧縮空気方式とも違う。リフィルの中には、まるで魚の骨のようなフィンが幾つも飛び出している。

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これは、リフィルにたくさんの部屋、つまり個室が用意されているようなイメージ。フィンの中心には棒状のものがあり、その内側がパイプ状になっていて、その中をインクが通って、ペン先に行くという仕組み。

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フィンで区切られた各部屋は完全に密閉されているわけではなく、各部屋には先程のインクパイプに通じる穴が設けられている。全体をエレベーターに例えると、各階のエレベーターホールのドアが開いているようなイメージ。

文字を書くときは各部屋のインクがその穴を通じて、ペン先へと送られていく。これまでのペンでは、インクがただただそのまま上から下に流れていたのに対し、このリフィルでは、これまでにないようなインクの流れである。

では、なぜ残ったインクは上に行き、下に落ちないのか。それはインクの表面張力によるものだという。フィンがたくさんあることで、インクがそこをつたっていくわけだ。それからもうひとつポイントがある。

文字を書くときは、インクがペン先から出て行く訳だが、それと同時に、ペン先からは必ず空気を取り入れている。空気が入らないことにはインクは出てくることはない。この仕組みは、他のペンでも同じ。

その取り込んだ空気がペン先側の空気スペースにどんどんとたまり、それによりインクが持ち上げられていくということもある。このこともあり、まさにエレベーターのようにインクが上に上がっていく。

飛行機に乗ると、気圧が変化しボールペンのリフィルの中にある空気が膨張してしまう。一般の直液式水性ボールペンだと、インクが外に押し出されて、インク漏れなどのトラブルがあったりした。

今回の「Vision RT」では、予め、ペン先側に空気がたまるスペースがあり、この空気がいくら膨張してもインクはペン先側ではなく、リフィルの後ろ側に押されていくだけ。

リフィルの後ろ側は行きどまりになっているので、行き場を失った余分な空気は、最終的には空気だけが、ペンから逃げるようになっている。そのための空気の緊急避難通路も別に確保されている。

さらに、ペン先のチップにも特殊なスプリングチップを採用するなど、細かな点での改良も加わっている。

こうしたことによりノック式でも気圧の変化に影響を受けない水性ボールペンが実現した。飛行機に乗ることはそんなにしょっちゅうないが、インクが段々と上に上がって減るというのは、かなり新鮮。

しかし、残念ながらこの「Vision RT」は日本での発売は予定してないという。欧米、そして中国向けに販売されていく。私は列に並んでアンケートを答えたので、一本サンプルをいただいて帰ってきた。

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■ 毎年皆勤賞で出展しているカール事務器

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今年もいつもと同じように大きなそして、綺麗なブースを構えていたカール事務器。カール事務器は、いち早く中国進出を果たしており、このペーパーワールドチャイナにも初回から毎年出展しているという。確かに、ブースの位置も入り口側の一番前といういい場所になっていた。

そのブースには、「CARL」というロゴの隣に「加路」という中国語の表記もあった。ご存知のように、中国では外来語もすべて中国語に置き換えてしまう。しかも、その発音や意味合いも似ているものを探してくる。この適切な漢字をあてはめる能力には、いつも感心させられる。今回、通訳をお願いしたヨウさんに発音してもらったら、正しく「カール」となっていた。

さて、今回のブースにはISOTで発表されていたものが幾つも展示されていた。たとえば、パーソナルシュレッダーの「マルコパッシーノ」。

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これは、2mm ×4.5mm という米粒ほどの小ささに紙を裁断するというもの。中国では、オフィスでシュレッダーを使うというのはすっかり当たり前になっているが、パーソナルシュレッダーについてはまだまだ未開拓。一部富裕層の間で、こうしたパーソナルシュレッダーが、徐々に注目され始めているという。

そして、約半分の力で穴が開けられる2穴パンチのアリシスも出展されていた。

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ISOTで受賞した「日本文具大賞」の看板が誇らしげに飾ってあった。ちなみに、中国も日本と同じように書類のファイリングは2穴が主流。

そのアリシスの手前には見かけないものが展示されていた。これはISOTでも展示されていなかったものだ。

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それはホチキス。ホチキスというだけならそんなに驚くこともない。しかし、これはアリシスと同じような美しい塗装で身を包んでいる。

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エルゴノミクス(人間工学)的な流面形ボディでメタリック塗装がひときわ艶々と輝いている。

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これは中国、そして欧米で11月頃から販売していくものだという。欧米のホチキスでは、よく見かける綴じる針の向きを選べるようになっている。

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ちなみに日本では残念ながらこのホチキスの販売は予定していないそうだ。私の対応をしてくれたのは、カール事務器 上海オフィスの総経理の方。「総経理」とは、経理部長ではなく、日本でいうところの社長のこと。経理、つまりお金を司っているトップを社長というのは実に的を得た表現だ。

その総経理の方に、他にこのペーパーワールドチャイナで初お披露目となるものはありませんか?と、お尋ねすると、文具ではありませんが、一つありますと、見せてくれたのが「Dress One」というものだった。

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これは、靴の除菌・消臭・乾燥機。カール事務器が文具でないこういったものをなぜ作っているのかというと、実は、カールテクノという別会社があり、そこでは光触媒技術を活かした商品を開発をしている。確かにカール事務器では、空気清浄機なども作っている。この靴除菌・消臭・乾燥機もその光触媒を使ったもののひとつ。

これがいいなと思ったのは、靴をセットするところが伸びるようになっていて、靴だけでなく女性のブーツもセットできる点。

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ブーツの中は結構むれるらしいので、女性には嬉しい商品かもしれない。

■ 138年の歴史を持つ切る専門メーカー

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「WESTCOTT」というブースにははさみ、カッター、そして鉛筆削りなどが幾つも並んでいた。同社は1872年、アメリカでハサミメーカーとして創業した老舗ブランド。たくさんの切るツールの中で私の目にとまったのは鉛筆削り。

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これが私たちが日頃、日本で目にするものと大きく違う。と言うのも、鉛筆を縦に差し込むスタイルになっている。なぜ、横からではなく縦から差し込むのかと聞いてみると、まず第一に省スペースにつながるということがあるそうだ。確かに、どれも縦には長いが平面部分は小さい。

そして、もうひとつデザイン的にも美しくなるという理由もある。上半分がスケルトンになっているものもあり、これなんかは、ジューサーミキサーのようだ。単3電池2本で動くタイプや AC電源タイプのものもあった。

実際に、削らせてもらったが、始めは、縦に鉛筆を差し込むというのに慣れていないせいか違和感があったが、鉛筆を下に押し込む方が力をいれやすいので、これはこれで使いやすいかも知れない。

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こうした電動だけではなく、手でハンドルを回すタイプもあった。

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これは鉛筆を入れる穴が幾つもある。しかも、その穴の大きさがまちまちときている。これは、単にデザインではなく、ひとつひとつの穴は実際に使えるようになっている。つまり、いろいろなサイズの鉛筆を削ることができる訳だ。

アメリカの鉛筆は、こんなにたくさんの軸の種類があるのだろうか。個人的には、先ほどの縦に差し込むタイプより私はこちらの方に惹かれた。

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