2021.03.30(478)

「ロングセラーには理由がある」

トンボ鉛筆

8900 鉛筆

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

軸色がグリーンをしている鉛筆は数あれど、この少し淡さのある色味の8900は独特だ。これはオリーブグリーンという。私自身、物心ついた頃からこの8900は身近な存在だった。家の黒電話の横のメモに添えられていたし、引き出しを開ければすっかり短くなった8900が入っていた。

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

子供の頃よく通っていた地元の文房具屋さんでは、8900のあの個性的なパッケージは強く印象に残ってもいる。目を閉じるとお店の棚に並んでいた8900の箱が脳裏に蘇ってくる。きっと誰しも記憶を辿ると思い起こされるシーンがいくつも浮かんでくるのではないだろうか。

トンボ鉛筆 8900 鉛筆これは8900の70周年記念の時に発売された缶ペンケース

この8900は1945年に誕生している。つまり70年を優に超えるロングセラーである。ファッション業界では時代が一回りして、再び注目されることがあるが、この8900は時代が2〜3周くらい回っていそうである。そして今、私の目にとても魅力的に写っている。

■ 写真修整用鉛筆として誕生

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

8900の鉛筆誕生には、8800という高級製図鉛筆があった。当時はまだコンピューターなどなく、機械の設計や製図には紙の図面と鉛筆で手書きをして行われていた。その専用鉛筆として8800は大いに支持されていった。ちなみに8800には6H〜6Bまで硬度があり、湿気や乾燥によって図面のコンディションが変化してしまうため、それらの硬度が使い分けられていた。

トンボ鉛筆 8800 高級製図筆記鉛筆これは当時の8800鉛筆。鉛筆コレクターの方から分けていただいた。

その後、時代は戦争へと突入していく。政府は過度のインフレーションを抑制するため、「価格等統制令」を決めた。その中で製図鉛筆の最高価格が20銭と規定された。8800はすでに10銭で販売されており、戦争による原材料の高騰もあり、その価格では作り続けることができなくなってしまった。一方でトンボ鉛筆は統制令施行直前に、まだ国産化されていなかった「写真修整用鉛筆」の販売許諾を1本30銭で得ていた。この価格なら原材料の高騰の中でもどうにか作ることができそうだった。そして、トンボ鉛筆は8800の代わりとして写真修整鉛筆の開発を進めていくことにした。鉛筆を継続して作り続けていくために下した決断だった。

写真の修整に鉛筆を使うと言ってもピンとこないかもしれない。そもそも鉛筆は写真の光ムラを取り除き透明感のある仕上がりが得られるという機能がある。今で言うフォトショップのような使い方だ。製図は今はCADで行われている。その意味でいくと、昔の鉛筆はコンピューターの役割を果たしていたとも言える訳だ。トンボ鉛筆では新たにその写真修整用鉛筆を作るにあたって、写真修整に必要となる機能をじっくりと検討して研究を行なった。その結果2つの改良技術を開発した。

一つは芯にワックス(油)を含ませ、しかも黒いワックスを使った。こうすることで滑らかに、そして濃く書けるようになった。そして2つ目は1943年に特許を取得していた粘土の微粒子加工技術の採用だった。これにより書き味が格段に良くなっていく。この2つの技術を活かしたことで、従来の「製図用鉛筆8800」の上をいく「写真修整用鉛筆」が完成をした。

きっかけは戦争によって、それまで主流だった製図用鉛筆8800が作れなくなってしまったことだった。そして、国産化されていなかった写真修整という分野に真正面から向き合い作り上げられた8900。折しも盛んになっていった光学技術の発展も追い風となり、写真修整ができる8900は順調に売り上げを伸ばしていった。その後写真修整という役割は終わり、一般筆記用として定着していく。8900のベースとなっているのは、こうしたプロの現場で耐えられる書き味だったのである。そして一般ユーザーにも広く受け入れられていった。

■ 自然な書き味

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

その後いくつかの改良を経て8900は現在も販売され続けている。改めて今の8900を書いてみると、とても自然な書き味であるのを感じる。ほどよいなめらかさがあり、紙への定着性がとてもよい。私が普段愛用しているMONO100と書き比べてみると、確かに違いはある。それはたとえば、軸を握った時のタッチというのがある。おそらくMONO100の方は軸に何層もの塗料が塗り重ねられているせいか、少しまったりとした質感がある。芯もMONO100の方がなめらかさがある。でも8900の書き味には十分と思わせる説得力がある。普段ササッと書くにはむしろこの自然さの方が書くことに集中できるようにも感じる。

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

私は、この8900にはゴールドのショートキャップをセットしている。8900のロゴが金色なので、金キャップがすんなりと馴染む。しかも、このショートキャップを後軸にさしたまま書いても、重さをほとんど感じない。8900ならではの軽快さを損なわない。

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

トンボ鉛筆 8900 鉛筆



8900は軸色のオリーブグリーンが特徴であるとはじめに触れた。この色合いがここ数年で変化している。それはトンボのロゴマークのリニューアルのタイミングと同じであるようだ。(これはあくまでも私が所有している8900を比べた範囲の話だが。。)

どういうことかというと、トンボが下向きになっている以前のロゴの時は、軸色が少し淡さがある。つまり少し薄めなのだ。そしてトンボが上向きになったリニューアル後はオリーブグリーンが少し濃くなっている。私は今の濃いめのオリーブグリーンの方が好きだ。

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

トンボ鉛筆 8900 鉛筆

トンボ鉛筆 8900 鉛筆シナモンのドライフラーを鉛筆トレイに

トンボ鉛筆 8900 鉛筆オリーブグリーンのミリタリージャケットとの相性も良い

トンボ鉛筆 8900鉛筆

関連コラム
「ブランド横断 自分に合う硬度を選ぶ」ステッドラーなど7ブランド 鉛筆
「BLACKWINGの歴史と魅力」BLACKWING 602
「鉛筆を大人っぽくするキャップ」鉛筆キャップ