2015.06.09(332)

「湖面の光を表現した万年筆」

プラチナ万年筆

#3776センチュリー 山中

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

#3776センチュリーの発売を記念してスタートした限定シリーズ。美しい日本語が書ける最高峰の万年筆を目指すということで「3776」は富士山の標高を表し、その限定シリーズも富士山をとりまく湖を冠してきた。「本栖」、「精進」、「西」、と順調に進められてきた。

ただ、昨年はちょっと例外でフランスの「ニース」という名のモデルだった。ピンクゴールドタイプもあり、見るからにヨーロッパというものだった。そして、5年目を迎える今年は再び富士五湖に戻ってきた。「山中」である。

■ 湖面のざわめきを表現

まずは、ボディにグルリと施されたデザインから見ていきたい。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

早朝の山中湖は朝霧が立ちこめ、湖面には静けさをたたえている。太陽が昇り始めると風が吹いて湖面に小さな波のざわめきが生まれる。そこへ澄んだ空気を通った朝日が反射するとキラキラと輝く。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

今回の「山中」では、その湖面に表れる波の優しいざわめき、そして、キラキラと反射する様子を表現している。ボディには、ユラユラとした細かなラインが幾重もある。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

光をあててボディをクルクルと回転させるとなるほど、その細かなラインが優しく反射する。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

こうした樹脂ボディにラインを加工するとなれば、一般的には表面を削っていく手法がとられる。ちょうど、ペンに名前を刻印するときのように。彫った跡というものは白くなっているものだ。しかし、この「山中」のラインにはそれが見られない。

実は、これは彫ってはいないのだ。では、どうやっているのか。「光線彫り」という手法が使われている。「光線彫り」とは、表面を押し込んで凹ませるというもの。削らずに押し込むことだけで、凹凸をつけている。そのため、あの白い溝のようにはならない。溝の底の部分も透明感にあふれる。加えて、押し込んで凹ませると、その両側が「わだち」と言ってほんのわずかだが、盛り上がる。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

ちょうど、やわらかな粘土の一部を押し込むと両端が盛り上がるが、まさに、そのイメージ。ユラユラとしたラインは実は、横から見てもユラユラとしているのだ。考えてみれば、湖の水面にできる波のざわめきというものは「わだち」のようにゆるやかなラインになっている。

細部にわたり湖面が美しく表現されている。この「光線彫り」は、ペンではあまり使われていない。ただ、プラチナ万年筆では、「早川式繰出鉛筆」のボディでその加工を使っていた。

hayakawa

今回の「山中」のようにプラスチックボディに施すというのは、ほとんど聞かないという。このユラユララインはただユラユラしているだけに見えるが、一本一本のラインの並びにもこだわっている。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

1本のユラユララインを中心にその両端のユラユラを半周期ずらし、さらにその外側を1/4周期ずらしている。この微妙なずらし加減が自然な「ゆらぎ」を生み出しているようだ。

ミクロの視線からすこし離して見る。すると、キャップからボディにいたるまでこのユラユララインがピタリと揃っていることに気づく。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

試しに、キャップを外して再び締めてみた。何度やっても揃う。実は、これちゃんと揃うように作られているのだ。「光線彫り」をするときボディにキャップを締めた状態で行っている。ふつうこうした加工ではキャップとボディは別々に行われる。

「山中」では、柄を合わせるためにセットして行っている。こうしたやり方は「蒔絵」などで行われているものだそうだ。セットしたまま行うということで中央リングの際の部分の加工がしづらくなる。しかし、見てみると、際ギリギリまでユラユラがちゃんと加工されている。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

という訳で、「山中」のキャップとボディはセットとして扱われなくてはならない。「山中」の別なキャップを持ってきてセットしても柄は合わない。

■ 「中軟」ペン先もある

最後に、ペン先についても一点触れておきたいことがある。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

ペン先のラインナップはこれまでどおりのF、M、B。それに加えて、「山中」では、中軟(SM)も用意されている。中軟とは、中字の柔らかなタイプということだ。その昔、プラチナ万年筆が「プラチナ萬年筆」だった時代にはあった。しかし、今はラインナップされていない。

というのも、生産コストが高くついてしまうから。通常のペン先とはその薄さが違うのだ。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

*「山中」の中軟ペン先

通常のものは、根もとからペン先に行くに従いだんだんと厚みがでていくという作り。

対して、中軟は根もとのスタートの薄さは通常のものと同じだが、その薄さは先端に行ってもずっと保たれたまま。

そして、ペン先の直前で厚みが出ている。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

左が通常の「M(中字)」、右が「SM(中軟)」。こうして比べると「中軟」の方がペン先が薄いのがよくわかる。ペン先を圧延する工程から別工程になるため、どうしてもコストがかかってしまう。今回の「山中」では、特別に設定されているが、今後、表舞台に出ることはないという。

その中軟で書いてみた。キャップを尻軸にカプリと優しく差し込み筆記体勢に入ってみる。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

私は、ボディの中央あたりを握るのがレギュラーポジション。指先が美しい湖面デザインをとらえる。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

万年筆は、あまりギュッと握るものではない。これは、優しく指先を添えてもほどよくフィットする感触がある。細かくなだらかな幾重ものユラユララインが指先に優しくとらえる。

このキャップを尻軸にセットした時もユラユララインはピタリと一致している。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

紙の上にペン先を添えて準備運動のように、すこしばかり筆圧をかけると、ペンの先端側だけがクッションのようにやわらかくたわむ。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

これは気持ちいい。このやわらかさを上手く味方につけると、文字に強弱をつけて書いていけそうだ。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

あんまり力をいれなくても中軟のやわらかさは十分味わえる。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

今やボールペンもどんどんと滑らかになって、多くの人たちの筆圧は以前よりも弱くなっているような気がする。中軟は、これからの時代にあったペン先と言えるかもしれない。

美しいボディと優しい書き味が楽しめる「山中」だった。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

*追記 1

この「山中」を買うと、「葉書タイムカプセル」プレゼントが付きます。「山中」(付属のブルーブラックインク)で書いた専用葉書を送ると、2019年2月までの間であれば、好きな日にその葉書を指定の住所に届けてくれるというものです。プラチナ万年筆のブルーブラックインクは、数年という月日が経っても、文字がしっかりと残るということを未来へのメッセージと共に身をもって体験していただこうという企画だそうです。

*追記 2

万年筆で書いたメッセージを紙飛行機で飛ばしてリレーしていくという企画で、私も参加させて頂いております。

その動画はこちら

*追記 3

「早川式繰出鉛筆」は、店頭在庫のみとなっているそうです。

* プラチナ万年筆 #3776センチュリー限定品 山中 20,000円+Tax

□ プラチナ万年筆 #3776センチュリー 山中

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