文具で楽しいひととき
■ その191 「ノート筆記用にあつらえた万年筆」 ペリカン スーベレーンM400 by フルハルター


  


□10月1日に小山龍介さんと共著で
 「ステーショナリーハック!」を出版させていただいた。

 実はこの本、
 かなり以前から企画自体はスタートしていた。

 私がメルマガを始めた頃だから
 もうかれこれ5年くらいのお付き合いになるマガジンハウスの編集者がいらして、
 その方から2007年のお正月に万年筆でこう書かれた年賀状をいただいた。

 「デザインステーショナリー+仕事術のような本を出したいですね。」と。
 この年賀状がきっかけとなって、この本の企画はスタートした。

 という訳で
 足かけ約2年で
 この本は実現したということになる。

 十月十日で子供を産むところを
 その倍の時間をかけたというこもあって
 私にとっては思い入れのこもった本なのです。

 こうして、せっかく本が出版されたので
 これは何かしっかりと形に残しておかねばなるまい。

 そうだ、2年間頑張った自分へのご褒美として万年筆を買おうじゃないか。

 心の中にいる私の分身たちが、
 「そうだ!そうだ!そうするべきだ!」と言っているのが聞こえてくる。

 いつも何かを買おうとする時は、
 心の中のやはり分身たちの
 「それ本当に必要なの?」
 「もう1日考えてみてから決めたら?」という消極的な声が
 聞こえてくることが多かった。

 しかし、今回だけは全会一致であった。

 そして晴れて万年筆を堂々と買うことにした。


□単に万年筆を買うのではなく、
 本を出させていただいた記念に万年筆を買うというが
 何とも特別な感じがあって嬉しい。

 では、今回はどんな万年筆を買おうか。

 記念とは言え、飾っておくのではなく
 日々仕事の中でバリバリと使えるものでなくてはいけない。

 原稿を書くときのための万年筆としては
 ペリカンM800やパイロット823あたりはすでにある。


    


 さらに、この用途で万年筆を増やしていっても、
 彼らの出番が少なくなるだけだ。

 さて、どうしたものか。

 そこで、まず
 自分の1日の生活の中で
 ペンを持つシチュエーションを思い浮かべてみた。

 朝一ではToDoリストを書く。

 これはキャップレス デシモがすでに担当している。


  


 そして、次に行うのがスケジュール帳の予定の記入。

 これは、現在ラミー2000のペンシルがここ1年間担当してくれている。


  


 これを万年筆に変えるというのはあるにはある。

 しかし、予定がコロコロと変更してしまう私には
 やはり簡単に書き直せる方がいい。

 ということで、スケジュール帳のための万年筆というのは、却下。

 そして、次に考えられるのは、
 取材や打ち合わせ時のノートの筆記。

 これは、えーと・・・・、
 そうか!!

 ノートのペンというのはこれ!というものがなかった。

 ある時はジェットストリームを入れたラミースイフトや
 ぺんてるのグラフ1000のシャープペンあたりを使っていた。

 なるほどノートのペンとして万年筆という手があったか!

 考えてみれば1日の中でも結構な量を書いている。

 実は、
 これまでもノートに万年筆で書いていたことは幾度もあった。

 しかし、私の所有しているのがどちらかというと
 BやMといったやや太めのペン先だったので、
 ノートの筆記にはあまり向いていなかった。

 私がノートに書くのは、
 どちらかというと外出先が多い。

 取材やクライアントの打ち合わせ等がそうだ。

 とすると、比較的コンパクトでそれでいて細字系がいいだろう。

 かなり条件が絞られてきたぞ。

 この条件に見合うものを考えてみた。

 どんな万年筆を買おうかと、
 あれこれ悩んでいる瞬間が一番楽しいものだ。

 余談となってしまうが、
 ついこないだ読んだ本「「暮らしのヒント集」(暮らしの手帖社)の中で
 こんな素敵な文章があった。

 「旅をするとき目的地に早く到着することばかり考えがちですが、
  時間をかけてゆっくり途上を楽しむプランを組み立てて見ましょう。
  目的地にたどり着くまでが旅ですよ。」

 というもの。

 これには激しく同意してしまった。

 ゆっくりと途上を楽しむのは旅だけではなく、
 万年筆などの買い物にも当てはまると思う。


□「趣味の文具箱」のバックナンバーの全てを
 よっこらしょと持ってきて机の上にドサッと置き
 丹念に眺め、タップリと途上を楽しんだ。

 その末に選んだのが、ペリカンのM400。


  


 言わずと知れたペリカンのスーベレーンシリーズ。

 ペリカンには、スーベレーン1000を筆頭に
 800、600、400そして300というラインナップが揃っている。


  
  【 左:M800、右:M400 】


 400は上から三番目の大きさ。

 上から考えると三男ということになるが、
 私はこんなイメージを持っている。

 1000がおじいさん、
 800がその息子のお父さん、
 そして600が長男、

 400は次男、300は長男の子供、
 つまり孫という勝手なイメージ。

 ということで400、三男ではなく、次男。

 私も次男なので、勝手に親近感を感じている。


□結構小ぶりなボディのせいか、
 私のような大きな手の男性よりも
 女性優しい手の方が似合いそうな気もする。


  


 しかし、私はこのコンパクトさにとっても心惹かれてしまった。

 実際、私の手に収めてみると確かに小さい。

 小さいゆえに取り回しやすく、取材のときなど、
 忙しくペンを走らせる時にもまさにちょうど良い。

 そして、何よりこの小さなボディにも吸入機構が備わっている。

 そんなメカニカル感がいい。

 小さな精密機械と言った感じがしてくる。


□ボディは、400で決まり、
 ペン先は細字の Fあたりかな、、、
 ここまで心に決めて、
 善は急げと大井町のフルハルターさんの所へ向かった。

 出発前にはあらかじめ定休日を確認することも忘れなかった。
 あふれでそうになる喜びを押さえながら
 冷静に定休日を確認するなんて
 大人な対応なだと、自分に感心してしまう。

 フルハルターさんの定休日は火曜日と水曜日、
 今日は木曜日なので大丈夫。

 勇んで出発!

 今にもスキップし出しそうな足を
 落ち着かせて向かった。

 いざ着いてみると、店の前に1枚の貼り紙が…。

 何と、遅い夏休みで、お休みだという。

 ガックリと肩を落とし、
 行きがけには期待と喜びでM800ぐらいに大きかった私の体は
 すっかりしょげかえってM400くらいになっていた。

 しかたなくトボトボと家路につく。

 そして、気を取り直して
 翌日に再びフルハルターさんへ。

 今度は過度の期待をしないように
 M600くらいの普通の体のサイズで向かった。


□ドアを開けて
 森山さんに開口一番 M400が欲しいのですがと伝える。

 内に秘める私の興奮をよそに
 いつも冷静な森山さんは
 そこにおかけくださいと言って私の気持ちを落ちつかせくれる。

 そして試し書き用のM400を
 どうぞとキャップを外して渡してくれた。

 「小さい…そして軽い。。」


  


 これまでも何度もM400を手にしたことはあったが、
 今更ながらにそのことを感じてしまう。

 今回はノート用の万年筆であることをお伝えすると、
 じゃあ愛用のノートで試し書きをしてみてくださいと言ってくださった。

 あらかじめ持参しておいたA5サイズのリングノート開き、書いてみる。


  


 手にしているこれは、ペン先がかなり細めだった。

 これはFですか?と訪ねてみると、一番細いEFだという。

 EFにしては少し太めな印象だった。

 国産のパイロットあたりだと F ぐらいに
 相当する細さだ。

 これがペリカンのEF なのか。

 あまり細すぎることがなく、
 これはかえってちょうど良いかもしれないという考えがよぎる。

 試しに5mm方眼の一マスに自分の名前を書いてみる。


  


 しっかりと書けた。

 もう一つ太めのF だとノートにはやや太すぎるかもしれない。

 しかし、EF よりも気持ち太めでもって
 万年筆らしい滑らかさでノートにも書いてみたい。

 そこで、EF をややFよりに研いでいただけませんか?と
 お願いをしてみた。

 厳密にどこまでできるかわかりませんが
 やってみましょうと引き受けてくださった。

 こうしたことにも対応してくれるので
 やはりフルハルターさんは信頼感がある。

 そして、最後の儀式である
 名前と住所、電話番号を書きとめる段になった。

 森山さんによると、
 ペンの大きさ太さによって微妙に握り方や書き方は違うそうなので
 以前に注文した人も必ず毎回書いてもらうそうだ。

 こうして楽しい注文作業は終わった。


□そして2週間程の月日が経ち
 「出来上がりました」という嬉しい連絡が入る。

 キラキラと輝いている私のM400がおとなしく待っていてくれた。


  


 書いてみる。

 この瞬間がちょっと不安がありながらもワクワクドキドキして
 たまらなく嬉しい

 再びノートを広げ、書き慣れた自分の住所書く。

 しっかりとした安心感のある細字。


  


 注文した通りEFよりもやや太めに仕上がっていた。


  


 EFということで書き味はさすがにBなどのように滑らかとまではいかないが、
 軽く書いているとサラサラと気持ちよくペンが進んでいく。

 これは書けばもっともっと良くなっていくと、
 森山さんは教えてくれた。

 愛しいまなざしでペン先に目を近づけてみると
 そこには、「 B 」という刻印があった。


  


 なんと森山さんは
 もともとBであったペン先をEFに研ぎ出してくれたようだ。

 何だか森山さんからご褒美をもらった気分になってしまった。


  


(2009年10月27日作成)





  ■ フルハルターさん オフィシャルサイト 


 <関連リンク>

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