文具で楽しいひととき
■ 「万年筆のための手帳」 アサヒヤ紙文具店 クイールノート 3,360円


 


□行きつけにさせてもらっている
 アサヒヤ紙文具店さん。

 かねてよりオーナーの萩原さんから、
 「今度オリジナルの手帳作るんです」という
 お話をお聞きしていた。

 確かそれが2006年頃のことだったと思う。

 お店に伺う度、
 試作品など途中経過を見せていただいていた。

 そして、
 ついにその手帳が発売されることになった。

 商品名は、
 「 Quill Note(クイールノート)」という。

 「 Quill」とは羽ペンという意味。


 
  *萩原さんが所有されている本物の鳥の羽だけを使った羽ペン。
   これは当時と同じ、ペン先を斜めにカットして切り割りを入れただけで、
   書けるようになっている。


 萩原さんは万年筆が大好きで、
 その万年筆が生まれるずっと前から使われ続けていた、
 いわば万年筆の前身である
 羽ペンに敬意を表して名付けられている。

 実は、アサヒヤ紙文具店さんのお店のロゴマーク、
 そして、お見せのドアーノブにも
 羽ペンが使われている。


 

  


 この手帳で萩原さんが最もこだわったのは、
 大好きな万年筆でも心おきなく書けるということ。

 そこで紙には
 原稿用紙メーカーの満寿屋さんの
 クリーム紙をぜひ使いたいと
 かねてより考えていたという。

 満寿屋さんのクリーム紙と言えば、
 万年筆での筆記を前提に考えて
 作られたオリジナルの紙。

 多くの作家の方々からも支持されている。

 萩原さんは、満寿屋さんの紙に惚れ込んでいて
 お店では、満寿屋さんの原稿用紙そして便箋
 全てを品揃えしていた。

 満寿屋さんに
 手帳にぜひクリーム紙を使わせていただきたいと
 お願いしたところ快諾してもらい
 今回の商品化とあいなった。

 手帳の一番後ろを開くと、
 アサヒヤさんと満寿屋さんのロゴが
 並んで印刷されている。


 


 つまり、ダブルネーム。

 そして、そのすぐ上には、
 萩原さんがこのクリーム紙に太鼓判を押している一文がある。

 このクリーム紙を使ったものには、
 先頃発売された満寿屋さんの
 オリジナルノート「 MONOKAKI」がある。

 今回の「クイールノート」も
 商品名にノートとはなっているが、
 体裁としては手帳である。

 満寿屋さんのクリーム紙を使った手帳というのは、
 この「クイールノート」が初めてということになるそうだ。


□さて、
 今回の「クイールノート」には3色のカラーバリエーションがある。


 


 ボルドー、ブラック、麻の3種類。

 ボルドーとブラックには
 ビニールクロスが使われている。

 これは、布にビニールを含浸させて作られているため、
 手にとって近づけてみると、
 表面にはもともと布であったことがわかる
 繊維の凹凸がかすかに確認できる。


 


 この質感、油絵を描いたキャンバスにも
 どことなく似ている。

 手触りはツルツルとザラザラの
 ちょうど真ん中あたりという印象。

 このビニールクロスのタイプは、
 よく辞書などにも使われている素材らしく、
 傷にめっぽう強いという。

 その表紙の中央には今回の商品名にもなっている
 羽ペンの型押しがある。


 


 そして、
 もう一つが麻色をしたクロスそのもののタイプ。

 麻というと、ゴツゴツとした質感をイメージするところだが、
 これは柔らかな風合いがある。

 この3タイプのうち、どれにしようか、
 1時間ぐらい悩んだ結果、
 私はボルドーを入手することにした。

 もともと、赤系の色が好きだということと、
 こうした手帳ではこの深みのある赤はあまり見かけないので、
 まずはこの色からスタートしてみることにした。


 


 サイズは MOLESKINE と比べると、
 キレイに天地左右において一回り大きくなっている。


 


 これは、ポケットに入れるということは想定しておらず、
 鞄の中に入れて持ち歩くためのサイズとなっている。

 そもそも、この「クイールノート」は、
 万年筆で書くということがベースになっている。

 万年筆は、ポケットに入れて携帯するというよりかは
 ペンケースに入れそれを鞄に収納するということが多い。


 


 そこで、
 「クイールノート」もその流れにのったという訳だ。

 あまり小さくしなかったのは、
 太めの万年筆でもたっぷりと文字が書けるように
 という配慮もあるようだ。

 サイズは A 6サイズ。

 この A 6は、表紙ではなく中の紙のサイズ。

 1ページの紙のサイズが正 A 6サイズとなっている。

 つまり見開きにすると正 A5サイズ。

 コピーをとって使う時などにも縮小や拡大が要らないので、
 何かと便利。


□中の紙の話をする前に、
 表紙を開けるところまで話を戻したいと思う。

 表紙は、3ミリとしっかりとした厚みがある。


 


 そこをドアーをノックするように叩くと、
 コンコンといういい音がする。

 表紙には木などは使われていないが、
 まるで木製のドアーをノックしているような音。

 表紙の厚紙にクロスがピッタリと張り合わされ
 そして中のクリーム紙が
 三位一体となって奏でているのだろう。


 


 張りのあるゴムバンドに指をかけ、
 それを外す。


 


 そして、表紙を開くと漆黒の世界がやってくる。


 


 「見返し」と呼ばれるこのページには、
 あえて真っ黒な紙が使われている。

 萩原さんは、この黒さにこだわったという。

 この紙は「スーパーコントラスト」という
 混じりけのない真っ黒な紙。

 黒い紙を色々と探し、
 この紙に行き着いたという。

 確かに
 パッと開いた時にビシッと締まった印象がある。

 この見返しのブラックは、
 どの表紙のタイプにも使われている。

 その右側にある「Quill Note」の文字は、
 萩原さんがカリグラフィーで書かれたものが
 印刷されている。


 


 その見返しをめくると本文紙になっている。

 ブラックの後だと、
 その対比がより強調される。


 


□私は満寿屋さんのクリーム紙タイプの原稿用紙を
 日頃使っている。


 


 いつも見慣れているはずの紙なのだが、
 ちょっと印象が違うように感じた。

 いつもよりも、
 クリームの色が濃いように感じた。

 これはきっと面積が小さいためだろう。

 よく小さな色見本でみている時より
 仕上がりは薄く見えるのと同じ事なのだと思う。

 そのクリーム紙は、
 グリーンの線の5mm方眼になっている。

 ノートや手帳ではグレーの罫線が一般的。

 あまり普通の手帳にはしたくなかったので
 はじめからグレーは考えていなかったという。

 かと言って、
 あまり派手な色だと書く時に邪魔になってしまうので、
 そのちょうどいい色として、
 この薄いグリーンを選んだそうだ。


 


 満寿屋さんの原稿用紙にはグリーンの罫線のものもあるが、
 今回のものはそれよりも数段薄めにしてある。

 書くときのガイド程度にはなるが、
 必要以上に主張しすぎない。

 あくまで
 これから書かれていく万年筆の筆跡が
 最も引き立つつように計算されている。


 


□万年筆で書くにあたって、
 必要なポイントとして、
 書く時にページが気持ちよく開いて
 紙面がほぼフラットになるという点がある。

 そのために
 「クイールノート」の製本では、
 いくつかの工夫がされている。

 糸かがり綴じでガッチリと製本され
 背を糊で固めている。

 その糊には「PUR」という
 乾いても柔軟性が保たれる糊を使用。


 


 カバーをつける前のものを見せてもらったが、
 ページを開くと背が気持ちよく割れて、
 背同士がくっついてしまうほどの柔らかさだった。


 

 


 このやわらかく仕上げた背に
 カバーをつける際、
 あえてカバーと背を接着させている。

 一般の手帳では、
 この背とカバーの間に隙間を設けているものが多い。

 今回、ここをピッタリとくっつけたのは、
 机の上でフラットになりやすくするため。

 手帳を開いてみると、背全体が内側に凹んでいき、
 一切の出っ張りもなく机の上で安定する。


 


□しおりはリボンに使われる両面サテン仕上げのものを使用。


 


 先端は斜めにカットしてある。


 


 こうしておくと先端の糸のほつれが少なくなるという。

 このリボンの色は、
 表紙の色にあわせて違うものが付いている。


□「クイールノート」の良さは、
 一つ一つの材料を吟味し、
 その素材の良さを生かすつくり込みになっているというところ。


 


 決して派手な機能があったりというタイプの手帳ではないが、
 主張しすぎない奥ゆかしさというものがそこかしこに漂っている。

 そう、この手帳で私が最も感じたのは、
 「奥ゆかしさ」という点。

 それは最後に記させれている「アサヒ屋紙文具店謹製」というところに
 象徴されている。


 


 万年筆愛好家のために謹んで作りました、ということが、
 とてもよく伝わってくる手帳である。


 
  * アサヒヤ紙文具店 オーナー 萩原さん


(2011年5月31日作成)


  ■ アサヒヤ紙文具店オリジナル 「クイールノート」はこちらで販売されています。





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 ■ 「美しい細字を書きたい。」 パイロット カスタム743 フォルカン

 ■ 「万年筆を手にしたくなるノート」 満寿屋 MONOKAKI 

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