文具で楽しいひととき
■ その197 「究極の多機能ペン」 メモックス


  


□私は、ISOT (国際文具・紙製品展)の事務局で働いていた。

 もうかれこれ20年も前のことになる。

 当時、社会人になりたてだった私が担当していたのは国内営業。

 つまり、国内の文具メーカーを訪問し、
 「 ISOTに出展してください」と説得をしていく仕事。

 日本には何百社という文具メーカーがあって、
 他のスタッフと手分けをして一社一社に
 それこそリストのはじからはじまで電話の営業活動を行っていた。

 営業というと辛い仕事というイメージがあるかもしれないが、
 私は、根っからの文具好きということもあって
 いろいろな文具メーカーを訪問するのが楽しくてしかたなかった。

 文具メーカーさんに行くと、
 大体、入り口のあたりに
 その会社の歴史やちょっとした商品展示コーナーがあったりする。

 営業の後に、しばらく見学させてもらったこともあった。

 このように基本はこちらから電話をして訪問するというものだったが、
 たまに先方から出展に興味があるという嬉しい問い合わせをいただくこともある。

 この会社もそうしたうちの1社だった。


□会社名はすっかり忘れてしまったが、
 ここにそのペンがある。

 年末の大掃除をしていて、なぜだかわからないが、
 我が家の下駄箱の中からひょっこりと出て来た。

 といっても
 靴の中から出てきたわけではなく、
 レザーグッズ作りのための材料や工具などを
 入れた袋の中に入っていた。

 その当時から私はノートカバーなどの革小物を自己流で作っていた。

 このペンが1本で二役をこなす便利さもあって、
 ちょっとした設計図や寸法をメモするときに使っていたのだろう。
 きっと、それがそのままになってしまったのだ。

 このペン、おそらく今は販売されていないと思うが、
 これが実にユニークな多機能ペンなので、
 ひとつここでご紹介してみようと思った訳なのであります。


□商品名は「メモックス」という。


  


 ペンなのに、「メモ」という名前がついてるところに
 このペンの凄さがあられている。

 鮮やかなというよりは、ややドギツイ紫色のボディ。

 クリップそして中央のリングには、
 ゴールドをあしらい1990年代のバブルの香りがプンプンとしてくる。

 ボディはメタル製で、手にするとヒンヤリとして
 同時にズシリともくる。

 ペンの基本機能としてはキャップ式のボールペンとなっている。

 ペンのキャップといえば、
 まっすぐに引っ張ってはずすか、ねじるかのふたつにひとつである。

 これは基本、前者の引っ張るタイプなのだが、
 ちょっとユニークな外し方をする。

 クリップの上がやや長めになっていて、
 そこに小さく「PUSH」と刻印されている。


  


 ボディをガッチリと握りしめた上で
 先程の斜めになったクリップを
 親指でもって押し込んでみる。


  


 すると、カチッという音とともにキャップが外れる。

 もちろんキャップはまっすぐに引っ張っても外れる。
 ただこの方法だとやや強い力が必要となる。

 中からはごくごく普通のボールペンが出てくる。


  


 試しに20年前のこのボールペンを書いてみた。

 はじめのうちはインクが出ずに
 無色の溝を紙の上に作るだけだったが、
 しだいに長い眠りから覚めたようにインクが少しずつやってきた。

 20年も前のボールペンがまだ書けるとは驚きだ。

 このボールペンがすごいのか
 はたまた私の「下駄箱収納法」がよかったのだろうか。。。


□さて、ここからがこのペンの最大の見せ場。

 「メモックス」という名の所以をお見せしよう。

 ボディの中央にはスリット状の隙間が
 まるで薄笑いを浮かべた様に、
 やや広めに空いている。


  


 中に見えているのは、
 そう、白い紙である。

 ペンなのに、メモを内蔵しているのだ。

 では、この紙どのように取り出すのか。

 先程のスリットをよく見てみると 
 中央に1ヶ所だけ広くなっている。

 そこから紙をつまみ出せばいい。

 しかし、紙の切れ目が見当たらない。

 そこで使うのが、
 ペン先の反対側にあるネジようなパーツ。


  


 ここをクルクルと回してあげると、
 中の紙がクルクルと回転し、
 紙の切れ端がじきに現れてくる。


  


  


 それをつまみ出せばいい。

 トイレットペーパーの様にスルスルとはいかず、
 やや重めな感じでジワリジワリと紙が出てくる。


  


 頃あいのいいところで、
 やはりトイレットペーパーの要領でピリッと切り取る。


  


 特に尖った刃物は付いていないのだが、
 これが結構まっすぐに切り取れる。

 どうやら、紙の方に秘密がありそうだ。

 というのもこの紙とっても薄い。

 書く紙の中では、
 ちょっとこれまでお目にかかったことがないくらいの薄っぺらさ。


  


 これまで体験したことないタイプの紙質だ。
 表面はややツルツルとしていて、感熱紙みたいな印象。

 レシートの紙のようでもある。

 ボールペンでの書き味は、
 可もなく不可もなくという感じで書くことはできる。

 書き味追求というタイプではなさそうだ。


  



□きっと皆さんの関心はこのペンの構造は
 一体どうなっているのだろうかという点に移っていることと思う。

 そのご期待にお答えして分解をしてみる。

 ペン先をクルクルとねじると
 中からボールペンのリフィルを覆ったロール紙が出てくる。


  


 ちょうど FAX のロール状の感熱紙みたいな感じだ。

 あえて紙をこれでもかと薄くしたのは、
 紙の容量をできるだけ増やすためだったのだろう。


□果たして、このメモ付きペン、
 便利かどうかはやや疑問もなくはない。

 しかし、ほぼいつものペンと同じボディの中に
 メモを入れてしまうという発想自体はとても面白いと思う。


  


(2010年1月26日作成)





 ■関連リンク 「懐かしのペンシリーズ」 

  ■ 「クネクネと曲がるペン」 ぺんてる Flexibol Pen

  ■ 「人魚をモチーフにしたペン」 ロットリング リーフ 万年筆

  ■ 「自立するバインダー」  EMON社 RISCOVER ルーズリーフ バインダー  (ペンではありませんが。。。)
 



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