文具で楽しいひととき
■ 「万年筆の楽しみを覗きこむ」 ルーペ


 


□野球選手のイチロー選手は、
 バッターボックスに入る時の動作が
 いつもほぼ同じだという。

 ネクストバッターサークルで
 屈伸をしてバッターボックスに入り、
 バッターボックスでは、
 左手を右肩あたりのユニフォームに手を添える。

 そして最後にいつもの決めポーズがある。

 それは、
 バットの垂直に立ててバックスクリーン側を見つめるというもの。

 まるで
 射撃をする時に照準を合わせているかのようだ。

 私も毎朝原稿を書く時の動作が
 いつもほとんど同じ流れになっている。

 まず、朝5時半におもむろにベットから起き、
 お湯を沸かしてコーヒーを入れ、
 コーヒーポットとマグカップを両手に持ち、
 いつもほぼ同じ歩数でキッチンから書斎に行く。

 椅子に座ると
 左手を後ろに回し原稿用紙をバサリと取り、
 右手でペンケースから
 ペリカン スーベレーンM 800を抜きとる。

 そして、
 さあ書くぞという最後の締めくくりに、
 必ず行うのがルーペを取り出して、
 ペン先を覗きこむという作業。

 ペンポイントを
 しばし見つめ気持ちを集中させて書き始める。

 このルーペを覗きこむという作業、
 書くという点で全く関係がないのだが、
 これをやらないと、どうにも落ち着かない。


□私がルーペで何を見ているかというと、
 ペンポイントの状態。

 私は自分で
 ペン先を調整したりなど全くやらないのだが、
 このペンポイントを見ていると
 とても幸せな気分に浸れる。

 私が愛用しているのは
 ピークというルーペメーカーのもので
 15倍レンズが付いている。


 


 たしか
 値段は2,000円くらいだったと思う。

 この15倍というレンズは
 倍率がやや高い分、
 拡大して見ることができる範囲、
 つまり奥行きのことだが、
 これが結構狭い。

 もともとは、印刷物の上に置いて使うもののようだ。

 新聞紙にポイと置いてみると、
 文字にピタリとピントが合う。


 


 ペンポイントを見るときは
 ペン先とルーペの物理的距離が
 ピタリと合わないと、
 クッキリとした像で見ることが出来ない。

 それこそ1mm 単位で、
 だんだん近づけたり逆に離したりして、
 クッキリとペンポイントが見えるところを探していく。


 


 初めの頃は、
 そうした作業が必要だったけど、
 今では万年筆を右手に、
 ルーペを左手にして一度にピントが
 バッチリと合うようになった。


□ルーペでペンポイントを覗き込んでみると、
 普段目にしない世界がそこにはある。

 はじめて見た時は、
 ペンポイントってこんな形をしていたのかと
 ちょっとした感動すらあった。

 私が原稿用万年筆として
 よく使っているペリカンスーベレーン M 800は、
 フルハルターさんで
 私の書き癖に合わせて研ぎ出してもらったものだ。


 


 いつも快適に書いていけるのは
 このペンポイントのおかげだったのかと
 毎回見ていると、親近感がわいてくる。


 


 しかも、もう5年程書き込んでいるので、
 ペンポイントに少しばかり
 変化が出来たように感じた時があった。

 急にというよりもじわりじわりと。

 これは気のせいかもしれないけれど…。

 毎回書き始めにルーペで覗き込んでいるのは
 実は、その具合を確認したいから。

 自分の使った証を目で確認するという訳だ。

 ちょうどゲルインクボールペンのインクが
 だんだんと減っていくのを見て
 道具を使ってるなと実感できるように。

 デジタルには、
 この減っていくと実感することが
 少ないように思う。

 最近の外付けハードディスクなどは
 1テラバイトもあり、
 少し使っただけでは
 なにがどう減ったのか、
 ちっともピンとこない。

 しかも、
 その減り具合も数字で示されるので、
 自分が本当にそれを使って減らしたのか
 あまり実感がわかない。

 ペン先やインクが物理的に変わったり、
 減っていくのを見る方が
 「道具を使っている感」というものが楽しめる。


□このルーペでもって、
 自分の持っているその他の万年筆のペンポイントも見てみたところ、
 万年筆ごとにペンポイントに個性があるのがよくわかった。

 私の持っている万年筆の中で、
 一番見ていてうっとりしてしまうのが
 パイロットカスタム823のコースという
 とっても太いペン先。


 


 これもフルハルターさんで
 研いでもらったものだ。


 


 このペンポイント、
 Bよりも太いのだが、
 ルーペで覗いてみると、
 太いというよりも、むしろ広い。


 


 しかも、
 その表面がツルツルとまるで鏡のように磨かれていて、
 ルーペ越しに自分の顔が映っているのが見える程だ。

 この他にも
 いくつかの万年筆のペンポイントを
 ルーペで覗き込んでみた。


□ パイロット カスタム743 ウェバリー 

 

 


 ウェバリーはペン先が
 上を向いているタイプ。

 ペンポイントとしては、
 M字相当だそうだ。

 まあるいペンポイントが見えた。

 まだまだ、その丸がしっかりと残されている。

 つまり、
 私の書き込みがまだまだ足りない、ということだ。。


 


□ パイロット カスタム 742 EF

 

 


 私が原稿の校正専用として
 こちらも5年ほど愛用している万年筆。

 私は、日頃から結構盛大に朱入れしているので、
 校正専用とはいえ、使用頻度かなり高い。

 ペンポイントの変化を期待したが、
 あまりにもペンポイントが小さいので
 ハッキリとした変化は確認できなかった。

 しかし、
 気持ち私が作ったであろう面が
 少しだけできているような気がした。

 心の中で小さなガッツポーズをとってみた。

 あらためてパイロットのEFペンポイントを
 じっくりと見ていると、
 それは、まるで小さな刃物のようだ。


 


□ パイロット カスタム74 M

 

 


 この万年筆は
 主に一筆箋に使っている。

 やはりMということで、
 先ほどのウェバリーとペンポイントの形状は
 似ている気がする。


 


□セーラー万年筆 プロフェッショナルギア M

 

 


 シルキーなタッチが特徴のセーラーのペン先。

 ペンポイントに見える面のような部分は
 確か、もとから作られていたように思う。

 紙の上にペン先を添えた時の
 ソフトなタッチは、
 このペンポイントによって生まれていたのだろう。(きっと。。)


 


□ 中屋万年筆 シガー 極太

 

 


 こちらも私の書き癖に合わせて
 研ぎ出したもらったもの。

 Bよりひとつ太い極太。

 ペンポイントは、
 まるで握り拳のようで力強さを感じる。


 



□モンブラン マイスターシュテュック 146 M

 

 


 年季から言ったら
 私の持っている万年筆の中で
 これが一番の古株。

 もうかれこれ20年くらいになる。

 ペンポイントには
 その年月によって作られた面が
 わずかばかり確認できる。

 改めて、こういうのを見ると
 さらに愛着がわいてしまう。


 

 また、
 このルーペでペン先を覗き込むのは、
 ただ見ていて楽しいということだけではなく、
 実利もある。

 覗き込んでみると、
 結構よく、
 ペン先の周りに糸みたいなものが付着していることがある。

 自分では糸を巻き付けた覚えなど全くないのに。

 たまに、
 その糸みたいなものがペン先にまとわりついて、
 それに気づかず書いてしまうと
 いきなり太字になってしまうことがある。

 ルーペで覗きこむことで、
 そうしたものを事前に確認して取り除くこともできる。


□万年筆は基本、
 書いてその味を楽しむものだが、
 ペン先をルーペで覗きこむことで、
 その味が目でも確かめられる。

 だんだんと変化してきたペンポイントで書くと
 その心地よさは気分的にも倍増する。


 


 (2012年2月7日作成)


*記事作成後記

 □今回のルーペ越しにペンポイントを撮影するのは、
  結構大変でした。

  まず、カメラを三脚でしっかりと固定します。

  一番大変だったのは、
  カメラそしてルーペという2重のレンズ越しに
  ペンポイントのピントをピタリと合わせること。

  それこそ1mm単位で微調整しながら
  撮っていきました。。


 □万年筆に限らず、
  ボールペンのペン先やシャープペンの芯先などを
  覗き込んでみるのも楽しいですよ。


 ■PEAK  ルーペ 15倍は、こちらで販売されています。





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