2021.04.13(479)

「限りなく鉛筆」

カランダッシュ

フィックスペンシル 2mm

カランダッシュ フィックスペンシル

私の文具ブランド好みには波がある。

それはこの pen-info の文具コラムを時系列に見るとよくわかる。たとえば、ラミーにぞっこんの時はラミーのペンばかりを紹介してきた。それが落ち着いてしばらくすると、こんどはパイロット時代に突入した。キャップレスデシモから始まり、カスタム742、743に至ってはペン先違いを3種類も紹介している。これがいいと思うと、ついついそのブランドばかりを立て続けに買ってしまう傾向が私にはある。

そして、今はカランダッシュ時代に突入している。849のシャープペンシルの良さを再評価し、今はフィックスペンシルが気になりだし日々愛用している。フィックスペンシル 自体は随分前から持っていたが、あまり活用できずにいた。

今回は私の中で存在感がにわかに大きくなった、そのフィックスペンシルについて。

■ 1929年に生まれたフィックスペンシル

1929年の初代フィックスペンシル 画像はカランダッシュジャパン社から提供いただきました

実はこのフィックスペンシルについては、「文具の流儀」を書いた時に輸入元のホルベインさんからじっくりと歴史的な背景などを取材したことがある。もう10年以上も前のことになる。

カランダッシュ社の創業は1915年。スイス・ジュネーブでスタートした。もともとあった「エクリドール鉛筆製造所」をアーノルド・シュバイツアー氏が買収して1924年に「カランダッシュスイス鉛筆製造所」とした。「カランダッシュ」という名は、当時人気のあったフランスの風刺画家KARANDASH(ロシア語で鉛筆)の雅号からヒントを得てフランス語風に綴り直したものだ。その社名からも分かるように鉛筆を主軸にしたもの作りだった。

1929年の世界恐慌時に木材が不足するという事態が起こった。そのため鉛筆の製造が困難となり、その際の代替えとして使われたのが金属だった。金属のため削ることができない。そこで開発されたのがチャック給芯式の機構だった。元々は鉛筆を製造する予定だっためフォルムはそのまま鉛筆の形状にしたのだという。1929年に誕生し、100年近い長い歴史がある。

もともと鉛筆作りからスタートし、鉛筆の代替えとしてフィックスペンシルが開発された。そして金属の特性を活かし彫刻を施したエクリドールが生まれ、軽くて加工しやすいアルミニウムを使用した849も誕生したという系譜がある。そのためいずれもベースは六角形となっている。

■ カランダッシュらしさ

カランダッシュ フィックスペンシル

つなぎ目のないワンボディ。いかにも頑丈そうなクリップ、そしてノックボタンという極限まで部品点数を少なくした仕様。これぞカランダッシュというこだわりである。これは849やエクリドールシリーズにもしっかりと受け継がれている。ボディの表面は塗装の剥がれが少ないという粉体塗装がされている。手にするとサラサラとしたマットな指ざわりがある。

カランダッシュ フィックスペンシル

私がこのフィックスペンシルで特に注目したところがある。それは重さというか軽さだ。計ってみると10gほどだった。同じカランダッシュの849シリーズのボールペンは16g、シャープペンは13gほどだった。ボールペンはゴリアットリフィル、シャープペンはメカを搭載しているので、そこそこの重さがある。フィックスペンシルも分解してみると、さすがカランダッシュというシンプルさ。2mm芯を覆う細長い筒状のパイプ、先端で芯をガッチリつかむクラッチパーツ、そしてスプリングくらいのものだ。一つ一つのパーツの軽量化もしているのだろう。10gに抑えられている。ちなみにカランダッシュの新品鉛筆は5gくらいだった。数値的には倍ほどの重さがあるが、鉛筆からフィックスペンシル に持ちかえてもそれほどの違和感はない。

カランダッシュ フィックスペンシル

カランダッシュ フィックスペンシル

■ 鉛筆ライクな書き心地

カランダッシュ フィックスペンシル

その程よい軽さを手にして、ノックボタンを押すと、クラッチ部分がグワっと飛びして3つに分かれる。と同時に芯がスルスルと際限なく出てくる。おっとっとと指などで抑えてちょうど良い長さに調整する。

カランダッシュ フィックスペンシル

カランダッシュ フィックスペンシル

クラッチ部分の露出は少々大きいが、芯をがっちりとホールドしてくれる安心感がある。この芯を出した時のフォルムがなかなか美しい。ペン先がだんだん細くなりクラッチパーツでわずかに膨らむが、芯先へとつながるラインが自然だ。ここは書いている時に常に見つめるところなので、私はこのペン先フォルムをとても重要視している。

カランダッシュ フィックスペンシル

書いてみる。

軽さゆえに低重心などハナから考えていない軽快さに富んでいる。ここらへんにも鉛筆っぽさを私は感じる。ライティングフィールは、私の好きな「自然な書き味」そのもの。筆圧を少し強くしてもガッチリとつかまれた芯はビクともしない。書き続けていくと、どうしても芯先は減って丸くなっていく。本来はこうした芯ホルダーのための芯だけを削る小さな鉛筆削りのような「芯研器」というものがある。それが手元にない時のためにフィックスペンシルには、ノックボタンを外した内側が簡易的な削りが備わっている。とは言え、刃がついてる訳ではない。芯をノックの内側に差し込みグリグリと回すとそこそこキリリとする。ノックボタンの外側には細かなスリットが入っているので、グリグリとノックボタンを回転しやすくなっているのもありがたい。この溝はフィックスペンシル しか付いていない。削る時はハラハラと粉末状のカスが出てくるので、私はゴミ箱を抱え込みながら削っている。

カランダッシュ フィックスペンシル

カランダッシュ フィックスペンシル

カランダッシュ フィックスペンシル



私は普段ノートに書くときは、0.7mmシャープペンか鉛筆を主に使っている。そこに新たな選択肢として、このフィックスペンシルも追加している。シンプルさゆえの一体感のある書き心地が書くことに集中させてくれる。何本か所有してHBやBなど芯の硬度を使い分けてみるのも楽しそうだ。

カランダッシュ フィックスペンシル

カランダッシュ フィックスペンシル

追記
フィックスペンシル(2mm)には、グリップにすべりどめ加工されたものもあります。

カランダッシュ フィックスペンシル

カランダッシュ フィックスペンシル 2mm芯

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