2011.10.11(240)

「シンプルな多機能ペン」

トライストラムス

マルチペン

私は「見かけによらず」というのが結構好きなんです。

例えば、普段は大人しいけど、実は空手の有段者ですごく強いとか、こういうのにめっぽう弱い。以前働いていた会社でも、こんな人がいた。彼女は、普段はすごく大人しいタイプなんだけど、実は暗算大会で一位だか二位をとったことがあるという経歴の持ち主だった。

何桁もある数字のかけ算をするときも斜め右上(だったか、斜め左上方向だったか、忘れてしまったが、いずれにしても斜め上)の一点をじっと見つめて瞬時に正解を導きだしていた。

見かけは普通なんだけど、実はすごいという人を見ると、とても格好いいと思ってしまう。

■ 見かけによらず多機能

このペンもその「見かけによらず」というものを持っている。トライストラムスのマルチペン。いわゆる多機能ペンだ。

トライストラムス マルチペン

「多機能ペン」というと、その多機能ぶりが全身からみなぎっているものが多い。代表的なところではノックボタンが色とりどりに幾つも付いていたりする。

ノックボタンが一つだとしても、何の色のボールペンが出てくるかの小さなインデックスがあったりする。しかし、このマルチペンでは、そうしたものが一切ない。それどころか、ペンのボディは一本の筒状という徹底したシンプルぶり。多機能ペンというより単機能ペンの中にあっても、遥かにシンプルと言える。

トライストラムス マルチペン

一般的には、ボディの中央には境目があって、そこからペンを分解したりできるものだが、これには、そうしたつなぎ目がなく、一本の筒スタイルを貫き通している。厳密にいうと、ペン先の細くなっているところだけ、うっすら別パーツになっているのがわかるが、それでもシンプルであることに変わりはない。

トライストラムス マルチペン

こんなにもシンプルなのに、全体の印象としては、しっかりとデザインされているというのが、ひしひしと伝わってくる。これはどうしてなのだろうか。きっと全体のバランスが整っているからなのだと思う。それを担っているのがペンのクリップならびに後端の部分。

トライストラムス マルチペン

ボディの筒スタイルに対して、クリップは板状という形は違えど、シンプルなフォルムになっている。つや消しのザラザラとしたメタルクリップは、先端の一カ所だけ「ガクン」というよりも「カクン」という感じで優しく一段下がっている。

静かな主張を感じさせる作りこみだ。

私は今回「カーキ」というカラーを手に入れた。このほかシルバー、ブルーそしてピンクもあった。シルバーとブルーはメタリック系の塗装であるのに対し、このカーキは、ベタッと塗り込まれている。

昔、ラミーのサファリが出始めた頃、まさにサファリカラーのこうした落ち着いたグリーンボディがあったが、今はペンのカラーとしては、めっきりと見かけくなっている色あいだ。

地味と言えば地味だが、ちょうど私が使っているポスタルコの手帳カバーもオリーブグリーンだったので、これを選んでみた。フト、いつも私が使っているステーショナリーを見回してみるとそれ以外にも結構グリーン系が多かった。「類は友を呼ぶ」ということなのだろうか。

トライストラムス マルチペン

話が前後してしまうが、このペンのパッケージもいかしている。

トライストラムス マルチペン

こちらも筒状のカプセルケースになっていて、その中にこのマルチペンが宙に浮いているかのように入っている。

トライストラムス マルチペン

両端がスポンジのフタになっていて、それを引っ張ると開けられる仕組み。

トライストラムス マルチペン

私は万年筆などを買う時は、いつもこうしたケースは要りませんと、キッパリとお断りして、中のペンだけにしてもらうのだが、さすがにこのパッケージは格好よかったので、そのままいただくことにした。そういえば、こうしたカプセルスタイルのパッケージといえばラミーのピュアがあった。

ラミー ピュア ボールペン

ラミーピュアもペンが宙を浮いたようになっているが、ピュアではペンの中央を支え、トライストラムスでは、ペンの両端を固定している。

この端の部分にはひとつ秘密が隠されていた。それは、取説が一体化されているところ。カプセルの上には黒い帯状の紙が巻かれている。ここをペリペリと剥がすと、巻物のように広がり、その内側が取説になっている。

トライストラムス マルチペン

パッケージデザインを上手く活かしている。

次にペンの使い勝手のご紹介を。ペンを手にすると、これが結構ズシリと来る。見た目にシンプルなので、てっきり軽量かと思っていたので、ちょっと意外だった。ペン先を繰り出してみよう。このペンはツイスト式。ボディは一体型でツイストしようにも出来ないので、クリップならびにペンの後端をツイストすることになる。

エンドレスでクルクルと回り続け、黒、赤のボールペン、そして0.5mm シャープペンが次々と繰り出される。

トライストラムス マルチペン

この回し心地は、トンボの ZOOM414よりゼブラのシャーボX にやや近い。と言っても、それらを使ったことがない方にはピンとこないかもしれない。どう違うかというと、ツイストしてペン先が出た時の感触が微妙に違う。ZOOM414は「カシャリ!」という、しっかりとした音とともにクリック感がある。

それに対し、シャーボXの方は、ペン先が出た時に「プスリ」という、やや大人しめの音ともに軟質なクリック感がわずかにある程度。今回のマルチペンは、この「プスリ」とまではいかないが、比較的ソフトなクリック感が手に残る。

こういうツイスト式ペンは、よく片手で操作するものだが、このトライストラムスの場合、ボディではなくクリップで行うので、正直片手だけではちょっとやりづらい。

トライストラムス マルチペン

もちろん出来なくはないが、出来たとしても一種類のペンを繰り出すところまでだと思う。これは両手を使ってツイストさせてあげたほうが良さそうだ。このツイストをしていて、一つ、いや二つほど気づいたことがあった。ひとつは後端が指を添えやすいフォルムになっている点。

上から見ると完全な丸ではなく、ちょっと独特な形をしている。

トライストラムス マルチペン

ここに指がピタリとフィットする。ツイストしやすい形が考えられているようだ。

トライストラムス マルチペン

もうひとつはクリップ。先ほども触れたように、クリップは板状のものを緩やかな階段のように一段下がっている。

トライストラムス マルチペン

このクリップの先端がボディに接していない。クリップという挟む機能を考えれば、ここはピタリとくっついてるべきところだ。あえて、こうしているのはツイストする時に、ここも動くので、ピタリと付けいているとボディに傷を付けてしまうからなのだろう。その分クリップ力、特に薄いものを挟む力はやや心もとない。

さすがに紙一枚で留めるとスカスカとしてしまうが、Yシャツのポケットくらいであればそこそこの安定感はある。

トライストラムス マルチペン

一方で、このクリップはその付け根がペンの後端の結構ギリギリからはり出しているので、ノートの表紙などにはさむと、ペンがノートからあまりはみ出さないという良さがある。

トライストラムス マルチペン

次に、ペンの重心バランスを見てみよう。これが、ちょっと興味深い。まず、ペンをそのままの状態で天秤のようにバランスを取り中心の位置を調べてみた。すると、中央よりもやや後側にあった。

トライストラムス マルチペン

次に、ペンを分解してみた。分解するには、後端の部分をそのまま引っ張ってあげればいい。

トライストラムス マルチペン

そうすると、3色のペン先の付いたユニットがスルスルと出てくる。

SONY DSCトライストラムス マルチペン

この中身のユニットだけで重心を調べてみると、今度は先程よりもさらに後ろ側、それこそクリップの先端くらいのところに重心があった。

トライストラムス マルチペン

そもそも多機能ペンというものは、違うペン先を出す機構が後端に集中しているため、どうしても後ろ側が重くなりがち。最後に筒状のボディ単体でも調べてみた。これはただの筒だから、ちょうど真ん中かと思いきや、やや前方にあった。

トライストラムス マルチペン

なぜだろうと不思議に思って筒の中を望遠鏡を覗くようにしてみると、先端側だけ内側に別パーツが二重構造になっていた。

トライストラムス マルチペン

ここを低重心、つまり前の方が重い作りにすることで、多機能ペンでありながら後が重くなりすぎるのをカバーしていたのだ。シンプルに見える内側では、こんなにも頑張っていたのだ。こんなところも見かけによらない。

トライストラムス マルチペン

トライストラムス マルチペン

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