2011.06.14(232)

「33年ぶりのリニューアル」

プラチナ万年筆 

#3776 本栖

プラチナ万年筆 #3776本栖

実は、今4冊目となる本を書いている。

その関係で3月頃から40社くらいの文具メーカーの取材活動で走り回っている。肉体的にはかなりきつい仕事ではあるが、まるで一人社会科見学をさせてもらっているような感じで、とても楽しい。その取材活動の中で訪れたプラチナ万年筆でちょっとしたニュースを耳にした。プラチナの定番万年筆#3776が33年ぶりにフルリニューアルすることになったという。

■ #3776がリニューアル

#3776ユーザーの私としては、一体どこがどんなふうに変わるのか大いに気になる。ちょうどその完成品が出来上がったばかりということで、特別に見せていただいた。今回は、そのファーストインプレッションをお届けしたいと思う。新#3776のリニューアルは2段構えで行われる。まず、2011年7月1日にスケルトンモデルが限定で発売される。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

そして、9月にブラックボディの定番モデルが発売されていくという流れ。

今回私が見せていただいたのは、スケルトンモデルなので、こちらの方をご紹介していく。スケルトンボディをあえて先に出すということは、それはつまり中身をお見せしたくてあえて行ったということである。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

と同時に、もう一つの意味も込められている。モデル名にもなっている 「#3776」の数字は、富士山の標高を表したものだ。美しい日本語が書ける日本の最高峰となる万年筆を作りたいという想いを込めたのだという。ということで「#3776」と富士山との関わりは大変に深い。

■ 富士山をテーマした限定品

今回のリニューアルにあたり、やはりこの「富士山」というキーワードは外せないだろうということに社内でもなったという。そこで目をつけたのが富士山のふもとにある富士五湖。その中でもとりわけ水の透明度が高いと言われている本栖湖にちなんでスケルトンボディを出すことにした。名前は、「#3776 本栖」。2,011本限定でキャップには、シリアルナンバーが刻印される。

では、まずボディから見ていくことにしよう。これまでの#3776と並べて比べてみる。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

パッと見たところでは大きな違いはないように見える。

軸が透明なので、ボディラインがちょっとわかりにくいが、よくよくじっくりと見比べてみるとボディラインはややふくよかになっているようだ。中央のリングには段差が付いて、立体感が生まれ、そこを頂点にボディの両端に行く従い、わずかに細くなっている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

これまでのものは、どちらかというと、フラットなボディであった。#3776には、幅広なクリップが付いているので、フラットボディの旧タイプでは、そのクリップとの比較で、より細身に見えていた。

今回のものにも、同じ幅広のクリップが付いているが、ボディがふくよかになったことで全体的な調和がとれているようにも感じる。さらに、あちこちを見比べていたらボディの全長もわずかではあるが、2~3mm ほど長くなっていた。

次に、今回のリニューアルの最大のポイントを見ていこう。

ここを見せたいがために、あえて透明軸を出したと言ってもいい。今回のポイントはキャップの中に隠されている。と言ってもスケルトンなので、よく見える。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

キャップの先端を見てみると、そこには大きなスプリングがある。そして、このスプリングのすぐ下に半透明のインナーキャップが見える。

■ インナーキャップ+バネ

すでにお気づきの方もいるかもしれないが、これはプラチナ万年筆が昨年発売した「プレジール」と同じ機構だ。これは一年間、万年筆をインクを入れたままで放っておいても、インクがドライアップすることなく、みずみずしいインクで書けるという特徴を持ったものだ。

私も「プレジール」で、その機能を初めて見た時に、廉価版だけでなく、#3776にこそそうした機構を取り入れて欲しいと思っていた。実は、プラチナ社では、着々とその準備を進めていた訳だ。

なんだ「プレジール」のバネ式インナーキャップを「#3776」に付けただけではないかと、思われるかもしれない。しかし、話はそう簡単ではない。「プレジール」のキャップはカチッと引っ張って開ける勘合式。そして「#3776」は、ネジ式キャップ。ネジ式でこの機構を取り入れるのは、それはそれで難しい問題がある。

キャップをクルクルとまわして、外したりつけたりをやってるとよくわかるが、スプリングが微妙に動いている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

プラチナ万年筆  #3776 本栖

■ インクのドライアップを防ぐ

特にキャップを締める時、閉めはじめの負荷は、これまでの#3776と同じ軽いものが首軸にインナーキャップが接してからは、キャップを回す感触に重みが加わる。この時スプリングがグッと縮む。これにより、インナーキャップの内側は密閉され、インクのドライアップを防ぐ。

今回のこのインナーキャップには、ネジ式ならではのこだわりがある。今度はスローモーションのような感じで、キャップを締めるところをゆっくりとやってみる。軽かった感触が重くなり、スプリングが縮みはじめた時にインナーキャップに注目してみる。この時、首軸が回転するその動きとピタリと息を合わせて、インナーキャップも回転しているのだ。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

プラチナ万年筆  #3776 本栖

なぜ、わざわざこんな手の込んだことをしているのかというと、もしインナーキャップを固定したまま首軸だけを回転させると、インナーキャップと主軸の接点がこすれて、いずれ凹んでしまい、密閉性が落ちてしまう。

そこで、この接点の損傷を防ぐために、一緒に回転させている。実に芸が細かい。

また、バネも「プレジール」の時よりも強いものが使われている。ちなみに、「プレジール」で強いバネを使わなかったのは、勘合という一気にキャップを開く仕組みのため。強いバネを使うと、キャップの開閉時にキャップ内部の気圧の変化が大きくなりすぎてインクを引っ張ってしまう危険性があったためだ。

その点「#3776」のネジ式は、じわりじわりとキャップが開いていくので、気圧が急に変化する心配がない。「プレジール」と「#3776」でインクを入れたまま、どちらの減りが少なかったのか、経時変化テストを行ったところ「#3776」の方が上だったという。

キャップの内側ばかりに目を向けていたが、その目を首軸に移してみると、今回のものはネジ山が長くなっている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

きっとこれは、スプリングを押し込んでいくための分なのだろう。先程、ボディの全長が少しだけ長くなったと触れたが、キャップの長さは全く変わっておらず、この胴軸がネジ山の追加分だけ長くなっているようだ。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

このスプリング式インナーキャップ回転スライドロックキャップ(私が勝手に名付けたものです)により、1年間インクを入れたままでも書き出しからスムーズにインクが出てくるという。今回、フルリニューアルとうたっているだけあり、万年筆の心臓部であるペン先そして、ペン芯も全く新しくなっている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

プラチナ万年筆  #3776 本栖

ペン先を旧タイプと比べてみると、デザイン的にはほぼ変わっていないようだ。

実は大きく変化したのは、ペン芯の方。そのため、それに合うようペン先も見た目は同じに見えるが、新しいものになっているのだそうだ。ペン先をクルリと裏返すと、たしかにペン芯はガラリと様変わりしている。細かったヒダが、厚くなっている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

プラチナ万年筆  #3776 本栖

そして、新しいものはペン芯の両端にエラのようなものが張り出している。これまでのものにはなかったものだ。これはペン先とピッタリとフィットさせるためだという。

書いていると、ペン芯の中央にあったペン先が少しずつずれるということが、たまに起こり得るが、そうしたことを防ぐことができるという。私は斜めに書く癖があるので、私みたいなものには嬉しい。最も変化させた点としては、インクのフローを今まで以上に多くして、滑らかに書けるように設定されている。

これまでのプラチナはどちらかと言うと、インクフローがやや渋めに設定されていた。今回、試したのは、ペン先がMだったが、確かにインクもたっぷりと出て気持ち良い書き味だった。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

そして、もうひとつ感じたのがペン先がわずかではあるが、しなやかになっているという点。特に書きはじめの時の初期しなりがよくなっている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

プラチナ万年筆  #3776 本栖

「#3776」は、その発祥がギャザードタイプということもあり、どうしてもプロ向けというイメージが強かった。今回、インナーロックキャップを搭載し、そしてインクフローも良くなったこともあり、プロだけでなく、これから万年筆始めるという人にもグッと親しみやすい存在になったと思う。

□ 記事作成後記
キャップを尻軸にさした状態で比べてみると、新しい「#3776」はより長くなっている。

プラチナ万年筆  #3776 本栖

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