2009.06.02(181)

「コスパが高い舶来万年筆」

パーカー

ソネット ラックブラックST

パーカー ソネット ラックブラックST 万年筆

ちょっと前になるが、日経新聞 土曜日版「日経プラスワン」の編集ご担当の方から連絡があり、こんど、「万年筆初めての1本ランキング」を行うので選者として参加しませんか、というお話をいただいた。私以外にも文具専門店や文具専門誌の方々などが各自おすすめの万年筆を選ぶという企画だそうだ。もちろん私は二つ返事でお引き受けすることにした。

お引き受けしたはいいが、さて、初めての万年筆として何を選んだらいいだろうか。まず私の中で考えたのが、「初めて」ということで、価格がそれほど高すぎないということだった。具体的にいうと1万円から2万円くらいが妥当だろうと考えた。それでいてペン先は、金ペンの本格派である、というものだ。

この基準にあう万年筆をいろいろと考えてみた。例えば、のプロフェッショナルギアやパイロットカスタム742などどうしても国産のものばかりが思い浮かぶ。もちろん、そうした国産のものもランキングの中にいれるが、海外勢からも入れてみたいところだ。

ちなみに、海外勢としては、ペリカン400と600をセレクトした。いずれも、3万円台とちょっと高めの価格である。海外の万年筆でもっとお手頃なものはないだろうか。海外の万年筆にも、もちろん1万円台のものはあるにはある。しかしそうした価格帯のものは金ペンではなく、スチールペン先がほとんど。

そこで、改めて、海外筆記具の総合カタログである「The Pen Catalogue」を隅々までめくってみた。すると、全くマークしていなかった一本の万年筆が目にとまった。パーカー ソネットだ。

パーカー ソネット ラックブラックST 万年筆

これは税込みで15,000円+TAX(コラム執筆時点)と今、話題の定額給付金にちょっとばかり足すくらいの価格ではないか。気になるペン先はもちろん金ペン。しかも、18金が使われている。国産万年筆の中でも、こうした1万円台で18金が付いているというのは、ほとんど見かけない。色々と調べてみたが、パイロット キャップレス デシモくらいなものだ。大体において1万円台の国産万年筆では14金ばかりだ。

何も万年筆にとって18金がベストとまで言うつもりはないが、金の価値として18金が上であることは間違いない。スペックを見ただけではあるが、これはいいかもしれない。ただスペックだけで、ひと様にお勧めするというのは、まずい。実際に使ってみて、その使い心地を自分なりに確認してみないといけない。

早速行きつけの横浜の万年筆屋さんに向かい、パーカーソネットを一本購入してきた。パーカーソネットというと、銀色ボディに細かな格子模様が敷き詰められたフラッグシップモデルがある。ちなみにそれは37,000円+TAX。今回のものは、ボディサイズはそれと同じで、表面がシンプルなブラックでまとめられている。

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ボディは、ツルッとしていて、手の中で気持ちよくフィットする。手にした第一印象としては、これは結構小さいな、、というものだった。と言ってもセーラーのプロギアあたりと比べると、全長はむしろ長い。小さいのではなく、細いのだ。

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いずれにしても、コンパクトな印象はある。ボディは全身メタル製ということで、見た目のコンパクトさの割に、そこそこの重量感がある。

キャップは引っ張って外す仕様。キャップが外れる際に「カチッ」という甲高い音はしない。かすかに「プシュ。。」という音が、するような気がするだけだ。

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この音は耳に聞こえてくるというより、「手に聞こえてくる」というに、くらいにかすかなもの。キャップを外すと、本体のスリムさがより強調される。

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■ やや小さいながらも18金ペン先

ペン先はスリムボディに合わせて小ぶり。ルーペを動員してペン先を観察してみる。

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確かに18金を表す「18K-750」の刻印が見える。では、この18金の書き味を味わってみることにする。紙の上にペン先を置き、いつも書いている住所の「横浜」という文字で、まずは定点観測。

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印象としては、プロギアを初めて手にした時ほどのタッチの柔らかさはあまり感じられなかった。

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次にペン先のしなりを確認するときに多くの人がよくする紙の上でグイグイと力をかけてみる。文字を書かずに、グイグイとするだけ。考えてみると、このペン先をグイグイとする動作は実際に書くときには決してやらないのだが、新しくペンを買おうとするときに、人はよくやってしまう。そういえば、鞄を買うときにも同じようなことをすることがある。鞄を手にし、意味もなく上下に小刻みに揺するという動作だ。きっと、あれに近いものなのだろう。

■ キャップをささなくてもゆったり書ける

話が横道にそれてしまったがソネットのペン先は、そんなグイグイに忠実に反応してくれる。気持ちよくしなるのだが、頼りなさはみじんもなくどちらかと言うと、芯の強さを持ったやわらかさだ。このソネットはキャップを尻軸にささずとも結構な長さがあるので、このまま書いても全く問題ない。欧米では、万年筆のキャップを日本のように尻軸にささずに書く人が結構いると聞いたことがある。このソネットもそうしたことを配慮したのだろうか。

パーカー ソネット ラックブラックST 万年筆

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もちろん、キャップをさしても大丈夫。むしろ、私はキャップをさした方がバランスはよいと思う。一般的な万年筆だと、キャップの半分くらいまでしか、入らないが、このソネットのキャップは、尻軸の7割近くまで、すっかりと飲み込んでしまう。つまり、キャップをさしても軸がそれほど長くならないと言う訳。当然、重心もあまり後にならないので、バランスが保たれる。こうしてボディを長めにして書いた方がペンのしなりが操りやすくなる。

そうそう、私が今回ソネットを買い求めたのは、「日経プラスワン」のはじめの万年筆として相応しいか、ということだった。自分の世界に入りすぎて、うっかり忘れるところだった。そうした点でこのソネットを総合的に見てみると、これはいいかもしれないと私は結論づけた。

というのも、はじめて万年筆を手にする方となると、おそらく、それまでボールペンで書いている方がほとんどだろう。つまり、やや強めの筆圧で書いている方が多いのではないか。そうした方に、このソネットの芯の強さのある書き味がうまくフィットするのではないかと思う。

こうして私は、晴れてこのソネットをランキングに入れることにした。初めて持つ人にもいいと思うし、万年筆を書き慣れてる人にも、「普通にいい」と感じられる1本である。

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■ 記事作成後記
*私が買ったソネットは中字(M)です。「M」のマークはペン先にはなく、裏側のペン芯に記されています。

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*私が買った時は、コンバータがセットされていました。別途買う必要がないのは嬉しいですね。

*今、すぐ気になるということではないのですが、キャップがネジ式ではなく、引っ張ってはずす「勘合式」であるのが少々気になるところです。と言いますのも、私の持っているモンブランのやはり勘合式のものは、もうかれこれ10年以上は使っているせいか、キャップの開け閉めがやや緩くなってしまいました。ソネットはせっかくの18金ですので、永く使いたいものです。永く使っていても、キャップが緩くならないといいのですが。。10年後にまたレポートしたいと思います。

■ 追記
本コラムアップ後に、読者の高橋良香さまよりアドバイスメールをいただきましたので、ここにご紹介させていただきます。高橋さまによりますと、このペンは、キャップに空気穴があいているため、インクが蒸発して色が濃くなってしまうという特性があるそうです。

確かに、ソネットのキャップには、空気穴がありました。一見したところでは、穴らしきものはないですが、キャップのトップ部分が完全に密閉されていません。このためでしょうか。1週間近く書かずに、久しぶりにキャップを開けて書き始めると書き出しにインクのカスレが見られることが私自身もありました。この点もご報告しておきます。

そういえば、以前コラムでご紹介していたパーカー45のキャップもやはりキャップに空気穴がありました。このとき、輸入元関係者の方になぜ穴が開いているのかをお聞きしたところでは間違ってキャップを飲み込んでしまった時に息が出来るようにするためとのことでした。

*関連コラム
「1万円 万年筆の魅力」パイロットカスタム74編
「1万円 万年筆の魅力」プラチナ萬年筆 #3776編

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