2007.01.09(122)

「自分だけの万年筆をあつらえる」

ペリカン

スーベレーンM800 by フルハルター

ペリカン スーベレーンM800 by フルハルター 万年筆

万年筆のペン先をユーザーひとりひとりに合わせて研いでくれるお店、「フルハルター」さん。万年筆がお好きな方なら、その名前をご存知の方も多いと思う。私もずいぶん前から、その存在は知っていた。しかしながら、私はまだ行ってはいけないお店、、みたいな自らがつくってしまった敷居があり、なかなかそれを超えることができなかった。

先日、フルハルターさんで研いでもらったという知人にその万年筆を見せてもらった。その知人のあまりのうれしそうな笑顔に最後の一押しをされ、私も手に入れてみることにした。そして、昨年12月の上旬、フルハルターさんのある大井町へと向かったのであった。

お店の前にたどり着くと、思っていたよりも小さな店構えだった。しかし、専門店という風格はかなりつよく漂っていて、決して気軽に入れるという感じはしない。

フルハルター

■ まず椅子に座ることから万年筆選びは始まる

ここまで来たのだから、いまさら後戻りはできない、と意を決して「ゴメンクダサーイ」と扉を開けて中に入ってみた。店の奥から、雑誌でよくお見かけする森山さんが出てこられた。万年筆が欲しい旨伝えると、どうぞ、お掛けください、と椅子を勧められた。

フルハルター

これまで、万年筆を買いに行って椅子を勧められたということはほとんどなかった。そもそも万年筆は座って書くものなのだから、買うときの試し書きもこうして座ったほうがいいということなのだろう。あらかじめ、フルハルターさんのウェブサイトで予習しており、これを買おうと心に決めていたものがあった。ペリカン スーベレーンM400 ホワイト(アイボリー)トートイズだ。

そのことをお伝えすると、森山さんは、「あれは、いい万年筆だけでど、キャップのねじ山にインクが付いて汚れてしまうことがあるんだよね。それが気にならなければいいと思うよ。」とアドバイスいただいた。

なるほど、せっかくのホワイトボディが汚れてしまうというのはちょっと気になる。残念だけど、それをあきらめることにした。そして、色々な万年筆を試し書きさせてもらい、最終的に絞り込んだのが、ペリカン スーベレーンM800とパイロット カスタム845の2本。

この2本を何度も試し書きさせてもらい、あーでもないこーでもないと悩み続け、それに森山さんは、快くご対応いただいたのがとても心地よかった。最終的に、まずは今回は(もう、次に買うことをこの時点で心に決めている。。)、吸入式であるペリカンM800に決めることにした。

■ 万年筆を決めると、名前や住所をその万年筆で書く

そのことを森山さんに伝えると、では、名前、住所、電話番号を書くよう一枚の紙を渡される。それを書いているとき一瞬、森山さんの痛いほどの視線を感じた。その日は、当然万年筆を持って帰ることはできない。数週間かけて、森山さんがペン先を丸く研いでくれるからだ。

すぐに持って帰れないのは少々残念だが、自分用にあつらえた万年筆が出来上がるのを楽しみに待つというのも、これはこれでいいものだ。そんなことを考えながら、「私の万年筆」にしばしの別れを告げ、大井町を後にした。

家路につきながら、そういえば自分用に研いでくれるということだったけど、そんなやり取りは全然なかったな。。でも、まぁ、とにかく完成まで待ってみることにした。年末のあわただしさの中、1日たりと、あの万年筆のことを忘れることはなかった。まだかまだかと思っていた12月末のある土曜日、森山さんから電話があった。

「私の万年筆」が出来上がったという。

■ 自分の万年筆が出来上がるという充実感

しかかりの仕事を超特急で仕上げ、いちもくさんに大井町へと向かった。これまで、万年筆を買いに行くというのはお店の中にあるたくさんの中から、一本を選ぶわけだが、今回は、私のためだけに仕上げられた万年筆が待っていてくれるのだから、これはもう、たまらなくうれしい。

フルハルターさんに着き、前回のような戸惑いはすっかりと消え、今回は、堂々とドアを開け、中に入いることができた。いよいよ、自分の万年筆とのご対面だ。椅子にすわり待っていると、奥から森山さんが大事そう私の万年筆を持ってきて、手渡してくれた。そして、試し書きをさせていただく。まずは、自分の名前を書いてみる。

■ 私の書き癖に合わせられたペン先

この前、試し書きさせていただいたときより、やはり圧倒的に書きやすい。丸く研ぎだされたペン先は、紙の上でそれはそれは滑らかに進み、軽く書いているにも関わらずインクがよどみなく出てくる。

ペリカン スーベレーンM800 by フルハルター 万年筆

これまでの万年筆だと、ペン先の中で滑らかに書けるポイントを探しながら書くということが多かったように思う。しかし、今回はその必要は全くない。まさに私の書く角度や筆圧を熟知してくれているものに仕上がっていた。つまり、自分が万年筆に合わせて書くということではなく、万年筆の方が自分に合わせてくれているのを感じる。これこそ、私のために研がれた万年筆ということなのだろう。

こうして、私のぴったりと合った万年筆が出来があっている訳だが、疑問に思うのは、森山さんはいつ間に私の書き方を知ったのだろうかということ。。先日、そうしたやり取りをした記憶は全くなかった。。。

そのことをお聞きしてみた。森山さんは、もちろん私の書き方にあわせて研いでくれたという。実は、私が最後に自分の名前と住所を書くときにペン先の角度や筆圧などを瞬時に見抜いていたそうだ。なるほど、あの時の森山さんの鋭い視線はそういう意味だったのだ。

あえて、そのことを言わなかったのは、その人の自然な書き方が見れなくなってしまうからだそうだ。もし、「それでは、あなたの書き方を見ますので、書いてみてください。」などと言ってしまうと、お客さんは、緊張していつもと違う書き方になってしまいかねない。ちなみに、そうして見抜いたその人の書き方を森山さんは数値化して先ほどの紙に記しておき、それを元にして後日研ぐのだという。まさに、職人技だ。

フルハルター

最後に森山さんは、自分で手塩にかけて研ぎ出した万年筆をまるでわが子を託すような面持ちで、こんなことを話してくれた。

フルハルター 森山さん

「私は、最高の書き味にもっていくためのスタートラインにしたに過ぎません。これから、土橋さんがこの万年筆を書き込んでいくことで、どんどんあなたにとって最高の書き味になってくれることでしょう。万年筆というものは、使えば使うほど熟成してくれます。そして、そのご褒美として、使った本人だけに、最高の書き味を生み出してくれるのです。」

この言葉をお聞きして、スタートラインでこんなにも書きやすいということは、ゴールは一体どんなすばらしい書き味が待っているのだろうかと、まだ見ぬそのゴールを今から、楽しみにせずにはいられない。

■ 追記

今回、私が買ったのは、ペリカン スーベレーンM800 グリーン。ペン先は、BをBのまま丸くと研ぎだしていただきました。

ペリカン スーベレーンM800 by フルハルター 万年筆

ペリカン スーベレーンM800 by フルハルター 万年筆

ペリカン スーベレーンM800 by フルハルター 万年筆

ペリカン スーベレーンM800 by フルハルター 万年筆

* フルハルターさんのオフィシャルサイト

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